2011年4月7日、私は渋谷のインターネットアカデミーにおいて、「Webリテラシー向上研修」に参加してきた。その前半では「インターネット・ビジネス概論」という題目で“Webを用いてビジネスを行うための基礎知識”を学び、後半では「Webマーケティング概論」という題目で“Webを用いたマーケティングの手法”について学んだ。以下では次年度の新入社員に向け、講義の内容をまとめたものを記す。そして、最後に講義を通した自分の感想を掲載したい。
─目次─
【第一部:インターネット・ビジネス概論】
1、インターネットの仕組み
2、Webサービス
3、Webディレクション
4、セキュリティ・法規
【第二部:Webマーケティング概論】
0、マーケティングとは
1、ターゲット戦略
2、メディア戦略
3、クリエイティブ戦略
4、マネジメント戦略
【第三部:感想】
第一部:インターネット・ビジネス概論
【1、インターネットの仕組み】
われわれはPCやモバイル端末などを用いてインターネットにアクセスし、様々なデータをやりとりしている。しかし、その仕組みはご存じだろうか。
インターネットに接続するPCのようなデバイスは、「Webクライアント」と呼ばれ、Web上のデータを保管する「Webサーバ」に対してリクエストを送る。送られたリクエストに対し、WebサーバはWebクライアントにレスポンスを送る。それが、Webを通じてデータがやりとりされる仕組みである。
レスポンスは「HTML」「XHTML」などの言語を通じてWebクライアントに送られるが、それは一種の暗号のようなもので、そのままの状態で人々が理解する事は難しい。そこで、そうした暗号を翻訳してくれるのが「Webブラウザ」と呼ばれるものだ。Webブラウザには、Internet ExplorerやFire Foxなど多くの種類があり、それらはすべてHTMLの解読のほか、画像の解析と表示やスクリプトの実行など、われわれがインターネットを利用する上で必要なさまざまな機能を備えている。
以上が、インターネットの仕組みの概要である。
【2、Webサービス】
人々はインターネットを使って
(1) 受信だけではなく自らも発信する事
(2) 見るものを選ぶ事
(3) 好きなタイミングで繰り返し見る事
(4) 互いに交流する事
ができる。以上の4つの特性をそれぞれインターネットの「能動性」「検索性」「リピート性」「双方向性」と呼び、それらはテレビや新聞などのオールドメディアにはなかった機能であると言われている。
そうしたインターネットの特性は、ユーザーの消費プロセスを変えた。インターネット時代の消費プロセスは「AICSEAS(アイシース)」と呼ばれ、それは“Attention(注意する)”、“Interest(興味を持つ)”、“Search(検索する)”、“Comparison(比較する)”、“Examination(検討する)”、“Action(購入する)”、“Share(情報共有する)”の頭文字を取ったものである。そんな「AICSEAS」が、インターネットを通じて人々が商品を購入する際のプロセスであると言われている。
そうしたAICSEASの流れが自分のサイト上でうまく実現しているかを検証するための概念として、「コンバージョン」というものがある。コンバージョンとは、そのサイトの目的とするところは何か?という事で、たとえばそれは「実際にWeb上で商品を購入してもらう事」であったり、「資料請求をしてもらう事」であったりする。サイト運営者は、自サイトで設定したコンバージョンに多くのユーザーを導くために、さまざまな施策を講じる必要がある。
【3、Webディレクション】
さて、次に企業がWebサイトをどのように作っていくかという面に注目したい。
Web制作請負会社の場合、先方の担当者と直接話し合ってサイト構築の企画を立てる「Webプロデューサー」、Webプロデューサーや場合によっては先方の担当者と話し合いながらWebサイト全体の設計を行う「Webディレクター」、Webディレクターのもとで実際にサイト制作を行う「デザイナー」「コーダー」「プログラマー」「ライター/カメラマン/サーバ管理者」がいる。
上記のようなチーム構成の場合、サイト構築のフェーズは「先方の担当者からのニーズの聞き出し(ヒアリング)」→「プランニング(企画)」→「提案(プレゼン)」→「制作」→「納品」→「運用/効果測定」となる。そうしたフェーズの中において、Webプロデューサーは「いかに売上を上げるか」というところに注力し、Webディレクターは「いかに費用を下げるか」というところに注力する。そうした2つの異なるベクトルの目的のバランスを取る事で、Web制作請負会社は自社の利益を実現していくのである。
自社サイト制作の場合、チーム構成例としては「Web担当者」の下に、制作者として「社内デザイナー」「Web制作会社」「システム会社」「ライター/カメラマン/サーバ管理者」などが置かれる場合が多い。先ほどの請負会社の例と違い、外注(アウトソーシング)が行われる場合が多いのが特徴である。この場合の制作フェーズとしては、「分析・調査」→「プランニング」→「社内プレゼン」→「制作」→「リリース」→「運用/効果測定」となる。
以上のように、自社サイト制作か制作請負かを問わず、その制作ワークフローは大きく分けて「戦略フェーズ」→「設計・開発フェーズ」→「テスト・移行フェーズ」→「運用・保守フェーズ」の4つと捉える事ができる。
【4、セキュリティ・法規】
インターネット上で商取引を行う事を、EC(Electoronic Commerce:電子商取引)という。ECサイトを運営する上で注意しなければならない点としては、悪質なユーザーにデータを盗まれる事を防止するためにSSL(データ暗号化)を施す事や、XSS(悪意のあるスクリプト)を入れられる事を防止する手段を講じる必要がある。また、個人情報の管理をしっかり行う事でデータの漏えいを防ぐ事も必要である。
以上の対策のほか、電子商取引に関連する以下のような法規は、最低限の知識として知っておく必要がある。
・電子契約法──消費者がECサイト上で混乱しないための基準を定める法律
・特定商取引法──ECサービスを提供するのに必要な法律。会社情報や、クーリングオフの方法などを定める。
・個人情報保護法、など
第二部:Webマーケティング概論
【0、マーケティングとは】
マーケティングとは一口で言うと、企業が“売りたいもの”を実際に消費者に買ってもらうための活動のことだ。企業が商品をただ売りだしたからといって、その商品を消費者が欲しがるとは限らない。そこで、消費者に「この商品がほしい!」という欲求を起こさせ、実際に購入してもらうための経済活動すべてをマーケティングという。また、ドラッカーの言葉を借りると、「マーケティングの究極の目的は、売り込みを不要にする事」、つまり、企業の営業活動を効果的・効率的にする活動すべてがマーケティングであるとしている。
マーケティングを考える上での基礎知識として、「企業側の視点(4P)」と「顧客の視点(4C)」というものがある。4Pとは“Product(製品)”、“Price(価格)”、“Place(流通)”、“Promotion(流通)”の事で、企業がマーケティングを行うための軸の事である。企業はこの4つのPを、4C(“Customer Value(価値)”、“Customer Cost(価格)”、Convenience(購入しやすさ)、Communication(コミュニケーション))という4つの顧客視点に対応させる必要がある。こうした軸のもとで行われる効果的なマーケティング手法を「マーケティング・ミックス」と呼ぶ。
また、マーケティングをする上で大切なもう一つの基本概念として、「3Cに基づく環境分析」というものが挙げられる。それは、
「Customer(市場/顧客)」:顧客の経済状況、ユーザー特性、新技術、法律
「Competition(競合)」:競合サービス
「Company(自社)」:強み、弱み(SWOT分析に基づく)
以上の3つの観点で、自社がマーケティングを行う環境をまず把握する必要があるという事だ。また、CompanyにおけるSWOT分析というのは、“Strength(強み)”、“Weakness(弱み)”、“Opportunity(機会/チャンス)”、“Threat(脅威)”という4つの視点でそれぞれ自社について分析するという事である。
こうしたマーケティングの基本概念のもと、事項以降ではWebマーケティングの基本戦略と個別戦略について説明したい。
【1、ターゲット戦略】
Webマーケティングには4つの基本戦略がある。それは、「ターゲット戦略」「メディア戦略」「クリエイティブ戦略」「マネジメント戦略」の4つだ。また、そうした大枠の戦略の中に、それぞれ個別の戦略が存在する。
では、はじめにターゲット戦略について解説したい。ターゲット戦略とは、マーケティングを行うフィールドである“市場”を決定する事だ。すなわち、「誰に向けてマーケティングを行うか」という事を定める戦略である。
ターゲット戦略の個別戦略としては、“セグメンテーション”と“ターゲティング”がある。セグメンテーションとは、何かしらの基準(変数)を軸に、市場を細分化する事だ(参考リンク:「用語集 セグメンテーション変数」 http://gms.globis.co.jp/dic/00335.php )。セグメンテーションの次のステップがターゲティングである。ターゲティングとは、マーケティングの対象となる商品・サービスと特性がマッチングする市場を選定する事だ。つまり、商品(たとえば自動車のミニバン)をどんな人々(たとえば都心部の主婦、男性会社員、など)に向けてプロモーションするかという事を決定するのがターゲティングである。
ターゲットを選定したら、次にそのターゲットの行動プロセスや特性を分析する「ユーザー分析」というステップが必要になる。ユーザー分析は、アクセス解析やアンケートなどの“定量分析”と、インタビューやユーザーテストなどの“定性分析”によって行う(参考リンク:「定量調査と定性調査の違い」 http://www.laplace-net.co.jp/tigai.htm )。それによって、ターゲットユーザーがWebサイトを訪れるまでの行動や、Webサイト上でどのように行動するかなどの“ユーザーシナリオ”が見えてくるのである。
設定されたユーザーシナリオをもとに、ターゲットユーザーがどんな人物であるかを具体的に想定する。そうして設定された架空の人物(ペルソナと呼ばれる)がどのようにWebサイトを訪れ、Webサイト上で目的を達成(コンバージョン)するかを考えながら、Webサイトを構築していくのがターゲット戦略である。
【メディア戦略】
メディア戦略とは、効果的なプロモーションを行うための戦略、つまり広告戦略の事である。Web広告の種類としては、ディスプレイ広告やブランディングサイトなどの「リーチ重視型広告」、SEMやアフェリエイト、クーポンサイトなどの「獲得重視型広告」、SNSやブログなどの「口コミ重視型広告」の3種類があり、それぞれ目的と用途によって使い分けられる。
たとえば、リーチ重視型広告の場合は、商品やサービスの認知向上や知名度向上が目的となる場合に用いられる。消費者にその場で「購入したい!」と思わせるものでなくても、AICSEASでいうAttention(注意)とInterest(興味)を喚起する事ができれば、リーチ重視型広告の目的は達成されたといえる。リーチ重視型広告の特徴はとにかく「多くの人に見られる」という事で、例としては、大手ポータルサイトのバナー広告などがある。
獲得重視型広告の目的は、広告をクリックさせてWebサイトへ誘引し、商品の購入につなげる事だ。例としては、検索連動型広告(SEM)やブログのアフェリエイト広告などがある。その特徴は、ユーザーの検索ワードや見ているブログの種類に紐づいた広告を載せる事で、そのユーザーが「興味がある」と思われる広告が表示されるようになっているという事だ。したがって、興味のある広告を見たユーザーがその広告をクリックし、実際に購入するという流れが想定されている。
では口コミ重視型広告の目的はというと、ユーザー間での口コミの創出や商品情報の拡散による話題喚起という事になる。たとえば、SNSなどにおいてユーザー同士が「この商品はおすすめ」といったように口コミを広げる事を想定した広告などが口コミ重視型広告である。その効果としては、商品・サービスへのアテンションを獲得できるとともに、「信頼する人から勧められた商品だから」という理由でユーザーが実際に購買に至るケースも多いのが、この広告の特徴である。
【クリエイティブ戦略】
クリエイティブ戦略とは、ターゲット戦略の過程の中で設定したペルソナ(想定されるターゲット像)のユーザーシナリオを想定して、ユーザーが動きやすい環境をWeb上に構築していく事だ。
クリエイティブ戦略の対象はWebのデザインや、ライティング(広告コピーの文面)、ユーザビリティ(Webページのつかいやすさ/わかりやすさ)、アクセシビリティ(誰でも使える/ユニバーサルデザイン)などに及ぶ。すなわち、ターゲットに合わせてWebを全体的に設計し、実際に作り上げていくことがクリエイティブ戦略だと言える。
【マネジメント戦略】
PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)の運用管理を行い、Webマーケティングの効果を最大化するのがマネジメント戦略だ。すなわち、Planのフェーズで「KPIの設定」、Doのフェーズで「個別戦術の実施」、Checkのフェーズで「アクセス解析」、Actionのフェーズで「ユーザー動線見直し」を行い、そしてまたPlanのフェーズへ…という一連のサイクルの事である。
ではまず、KPIとは何だろうか。KPIとは“Key Performance Indicator”の略で、Webサイトのゴールの達成度を数値化した効果測定指標である。わかりやすく言い換えると、「そのWebサイトが何を目的とするのか?」という問いに対し、アテンションの獲得を目的とするのならば「PV(ページビュー)数」、つまりそのWebサイトが何回見られたかがKPIになるし、ECサイト上での売上を目的とするのならば、その売上金額や注文数がKPIになる。そのように、KPIは“Webサイトの目的に対する達成度”のことだ。それを設定するのが、PDCAサイクルにおけるPlanの段階なのである。
KPIを設定した次はDoのフェーズ、つまり実際にやってみる段階がくる。実際にやってみた次に来るのが、Checkのフェーズ、つまりアクセス解析だ。アクセス解析ではまずサイト全体の状況把握をするために、セッション数・PV数・UU(ユニークブラウザ)数・平均滞在時間・直帰率などを計測し、そのうえでユーザー行動の分析を、各ページ毎のPV数の計測やユーザー経路の把握などによって行う。そして次にそれらのユーザーがどこからきたのかという“流入元”を調べ、最後にそれらをもとに、ユーザー動線のタイプ別のコンバージョン率を分析する。すなわち、ポータルサイトYから来たユーザーは何名でコンバージョン率何%か、などという事を図るのである。
そうしたアクセス解析を経て、改めてユーザーの動線(ユーザーが自社サイトに辿りつくまでの経路や、自社サイト内でのユーザーの動き)を最適化する作業が行われる。具体的には、ユーザーが自社サイトに訪問する際の最初のページを最適化する「LPO対策」や、自社サイト外に自社サイトへの誘導サイトをつくる「サテライトサイト戦略」、Web以外のメディア(たとえばテレビや雑誌など)と絡み合うように広告戦略を行う「クロスメディア戦略」などが、マネジメント戦略におけるユーザー動線最適化の手法として挙げられる。
第三部:感想
以上が、私がインターネットアカデミーにおいて受講した「Webリテラシー向上研修」のまとめである。その内容の濃さゆえに長文になってしまったが、当日話された事のうち重要な部分はだいたい取り上げたつもりである。
私がこの講義を受講する中で最も印象的であったのは、すべては「数字」によって裏付けられているのだ、という事だ。恥ずかしながら「KPI」や「コンバージョン」という言葉をこの時まで知らなかったのだが、企業のWebサイトというものがここまで数値的な目標のもとで、戦略的に作成されているという事を知り、ビジネスで利益を上げるということはこういう事なのだと感じた。
当社について言えば、マーケティングという概念は営業をするにあたっても編集をするにあたっても、常に最重要事項として念頭においたうえで業務をする必要があると感じている。営業であれば営業先の企業のプロモーションを成功させるために先方のKPIを把握したうえで的確なメディア・マーケティングを提案する必要があるし、編集であれば自分の記事の価値を高めるためにユーザー動線を考えていく必要がある。
次年度の新入社員たちは、これからアイティメディアでWebビジネスを作り上げようとする第一歩として、ぜひこの資料を通してマーケティングの基礎をなんとなく把握してくれるとありがたいと思う。
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