今年もアイティメディア株式会社には4名の新卒社員が入社した。4月4日、同社取締役の藤村厚夫さんは「これからのWebビジネス、Webメディアへ携わる君たちへ」というテーマの講演において、緊張の入社式を3日前に終えたばかりの4名の新人達へ向け、さまざまなメッセージを送った。
この記事は二部構成とし、第一部では講演の内容を要約してまとめたものを、第二部ではその内容に関し、4名の新入社員の中の1人である私が感じたこと・考えたことを綴っていきたい。
第一部:藤村さんの講演まとめ
【ITmediaとメディア】
ITmediaは様々なメディアを持っている。しかしそれらメディアは、たとえばテレビやラジオなどといった従来メディアとは一線を画す、いわば「メインストリームへのオルタナティブ」として存在している。
過去、そして現在も、メディア企業と呼ばれる会社はクライアント企業からの「広告費」を主な収益源としてマネタイズをしてきた。それはWebを媒体とするITメディアであっても同じである。
しかし、今日の重く冷え込んだ日本経済において、そうした稼ぎかたはもはや古いものとして考えていく必要がある。企業がそうやすやすと広告費を捻出してはくれなくなった今、広告収入だけでない新たな安定した収益源を確保していかなければならないのだ。
そこで、例えばITmediaのもつ新しいメディアビジネス形態であるバーチャルイベントは、企業の博覧会やショールームといったリアルなイベントを仮想空間上で表現することで、メディア企業としての新たな価値の提供を目指している。
【メディアとは何か。コンテンツとは何か】
メディアとは「器」=「情報の形式」である。従来型のメディアにおいては、その物理的な側面、すなわち例えば新聞であれば紙であるから折り畳めることなどの機能面が、その記事に書かれた内容と同等かそれ以上ぐらいに重要であった。
しかしそうしてメディアの物理的な側面に価値を見出すという事は、例えば紙メディアが音楽を伝える事ができないように、同時にその媒体の限界を定める事に他ならない。「情報の実体」たるコンテンツを流通させる手段としてのメディアは、現在ではそうした機能面よりも、「どんな情報を、誰に、どのようなテイストで伝えるか」というアプローチ面の重要度を増してきている。
メディアの形のあり方は利便性によるもので、必然性によるものではない。例えばiPadの登場によって新聞=紙という図式が崩れたように、“メディアとコンテンツの分離”はこれからも加速していくだろう。
また、3月11日の震災以降、視聴しづらくなったテレビの代わりとして被災地などでインターネットが活躍したことも、突発的ではあるにせよ、そうした潮流をさらに早めていくきっかけになるかもしれない。
【メディア業界における3つのインパクト】
いまメディアは、リーマンショック以降の世界的不況とそれによる企業の広告出し渋りなどの影響によって、非常に厳しい環境にあると言える。従来は効果的であると考えられていたマス広告などはその価値が見直され、企業はより安価で効果的な広告はないかと考えるようになった。
加えて、震災以降は「広告の自粛」という事もさかんに行われた。すなわち、従来のメディア産業は営業の基盤そのものが揺らいでいるのである。
そうした状況下において、メディア企業は上記した“メディアとコンテンツの分離”に対応した、新たなメディアビジネスを作っていく事が強く求められている。
・二つめのインパクトは「ソーシャル革命」
ユーザー=受け手という従来型のメディアに対し、ソーシャルという概念は「自らが参加し、つくるメディア」という新しいメディアの形をもたらした。
また、Web上における情報の総量が爆発的に増加していることにともない、ソーシャルの枠組みを利用して情報の流通を行う新たなメディアビジネスの形を作り上げていかなければならない。
ITmediaの取組みとしては、自社メディアと読者の間に影響力のあるブロガーなどを介在させる事で、そこからの口コミ的なコンテンツの拡散や、大衆参加型のオピニオン形成をデザインしている。
従来からPCを中心に据えてきたWeb閲覧はいま、「すぐに見る/すぐに書く/すぐに撮る」という新しい形にシフトしつつある。その引き金となったのはスマートフォンの台頭である。
これからのメディアは、形式からの解放だけでなく、その時間的・空間的な制約からも解放され、24時間どこにおいても情報の受発信ができる、様々な情報の受け手に対応したメディアになっていく事が求められている。
【21世紀型のメディア】
「みんなのためのメディア=マスメディア」は、紙や電波の物理的な制約によって成立していた。そして、今後は縮小し消滅していく。(ブログ「アンカテ」より)
マスメディアのように上意下達で一方通行なメディアは次第に魅力や価値が薄れ、リアルな人々の「その時/その”文脈”」にフィットした情報の受発信を可能とするメディアが必要とされてくる。「一人は全員に、全員は一人に」が実現する新時代のメディアを、これから作り上げていきたい。
【新時代のメディア人とは】
デザイナーはプログラマーかもしれない。編集長は建築家かもしれない。編集者や記者は営業パーソンかもしれない・・・。
21世紀型のメディアをつくるためには、自分の役割を限定し、ただそれを演じるだけの人物は求められていない。例えば編集長という立場であっても、ただ記事をつくるだけでなく、その記事をどのように組み上げるかという事を、さながら建築家のようにユーザーの動線などを考えながらデザインしていく必要がある。”テーマ”よりも、”仕組み”を考えられる人物が求められているのだ。
つまりそこで求められるのは、ミクロだけでなくマクロの視点である。編集に限らず、全体のシステムや流れをデザインした上でのパーツ設計をする事が、21世紀型のメディアを作る人間には求められている。
加えて大切なのは、常にデジタルとの接点を欠かさないこと。高いデジタルスキルが必須条件なのは自明であるし、想像力の半分は、デジタルとの接点から生じるのだ。
第二部:新入社員はどう感じたか
私がこの講義を受けて最も強く感じたのは、現在のメディア産業という苦境の中で新しいものを作り上げ、なおかつそこで収益を上げていくためには、「クライアント企業の利益」と「ユーザーの利益」を最大化する際に、自らそのリミットを設定してはならないという事だ。
例えば従来の紙メディアであれば、読者にしてあげられる事も、広告出稿企業にしてあげられる事も、「紙」という制約の中での利益最大化に過ぎなかった。
しかし、藤村さんが講演でおっしゃった通り、これからのWebメディアはデバイス的/時間的/空間的な各種の“縛り”から解き放たれた状態だ。この状況を活かして真に人々の幸せに直結した次世代のメディアを作っていくためには、従来の発想にとらわれない、まったく新しい素晴らしいものを作るのだという強い意識が大切なのだ。
また、今回書きそびれてしまったが、最後に藤村さんがおっしゃった「ライバルは出版社ではない。Googleかもしれないし、カカクコムかもしれない」というお話がとても印象的であった。メディアの形が”必然性”ではなく”利便性”によって決まるように、読者がメディアを選ぶという行為もまた、必然性ではなく利便性によって決まる。そこで、読者の視点に立って、この情報爆発時代の中で本当に選択すべきはいかなる形のメディアか、ということを描いていくのが求められているのだと思う。
そのためには前提としてデジタルへの高い感応力も必要であろうし、ミクロとマクロの視点を兼ね備えるための努力も欠かせないと思う。そして何よりも、どんな状況においても”変化”を楽しみ、自ら変化を引き起こせる人間でありたいと、改めて思った。
世界的な不況や歴史的な災害というものが、我々メディア企業にとって大きなピンチであることは確かだと思う。しかし、それと同時代に勃興したスマートデバイスやソーシャルサービスの革新的な進化は、メディア企業にとって決して逃してはならない千載一遇のチャンスなのではないだろうか。
ピンチとチャンスのはざまに揺れるメディア業界に飛び込んだ新入社員である私は、これからのメディアの革命的な変化を自ら作り上げていく一員として、自分なりの理想のメディアを形づくる想像力を養っていきたいと思った。
ありがとう。拝見しました。
自分自身にも問いかけているところですが、いろいろな変化が起きているいま、自分はメディアに対してどうなって欲しいか、もっと自覚的になろうと思っています。
一般の消費者(読者)ならば、すでに無意識のうちにメディアの選択が変化しているだろうことを、自分たちは自覚的に理解しないといけないと思います。
これからどうなっていくことが消費者(自分も含む)から求められているだろう?
投稿情報: Atsuo Fujimura | 2011/04/14 05:19
藤村さん
コメントありがとうございます。
本当におっしゃる通りだと思います。プロとしてメディアでお金を回しているからこそ、自分たちの次のステップを見据えていかなければならないですね。
長文になってしまいましたが、以下に自分なりの考えを書いてみました。
【1:欲しい情報】
まず、いち消費者として僕がメディアに求めることは、自分の欲しい情報を届けてくれるということです。
至極当たり前のところですが、だからこそ、一番大切なのではないかなと思います。
【2:独自の情報】
次に、面白い情報がほしいです。どこのサイトにも書いてあるような情報ではなく、独自のリサーチなどに基づくレアリティの高い情報があれば、そのメディアをチェックし続けたいと考えると思います。
【3:複数の観点から】
最後に、客観的なデータだけでなく、主観的な情報も欲しいです。たとえば製品の比較紹介であれば「こちらの製品はここが良くて、こちらの製品はここが良い」というだけでなく、「こっちのほうがいいと思う!なぜなら~~だから。」という情報も欲しいです。
僕も個人的にITmediaの記事を購買の参考にすることがありますが、その際にITmediaの記事だけで「よし買おう!」と判断することはありません。ITmediaの記事を読んだ次に参照するのは、価格.comの口コミだったり、twitterの検索だったりします。
こうした主観的・客観的な情報は、どちらが欠けてもいけないと思います。消費者としては、両方の情報をすり合わせたうえで、改めて購買を検討するのだと思います。
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以上の3点を藤村さんがおっしゃった「どんな情報を、誰に、どんなテイストで届けるか」という枠にあてはめますと、
『独自の情報を、それを求めている人に、主観・客観両方の切り口から』ということになるかなと思います。
そこで、その条件に応えられるメディアを想像したところ…
たとえば
・ユーザーが知りたいことをソーシャルな空間で拡散し合う
・総デマンド数が一定のラインを越えた時点で、記者が独自の取材に基づく記事を投稿
・それに対し、ユーザーが自身のオピニオンをどんどん重ねていけるような…
そんなものがあったら面白いんじゃないかなと、個人的には思いました。
(グルーポン+デマンドメディア+2ちゃんねるみたいになってしまいましたが…)
投稿情報: 本宮 | 2011/04/15 14:22
藤村です。
なるほど。では、自分のイメージを検証していくためには、もう少し“目的”を絞ったメディアで、どのような実装(機能の盛り込み方)をすべきかを考えるのがいい。
たとえば、「家具の紹介とそのレビュー(使用記)」を主題にしたメディアを想像して、その上で考えた特徴や特性がどう実現されるべきかを考えると、いっそう発想に深みとリアリティが出る
。
投稿情報: Atsuo Fujimura | 2011/04/16 21:46
藤村さん
ありがとうございます。
お返事するのが大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
藤村さんにいただいたご助言をもとに、
自分が「家具の情報」を扱うメディア運営者だったらどうするか、また、その利用者だったら何を求めるかを考えてみました。
家具は実際に見て触って選ぶのが一番だと思いますが、その段階に行きつくまでに「どの家具がよさそうか」を絞り込む必要や、「その家具はどこに売っているのか」を知る必要があります。
また、「その家具が自分の部屋に合うのか」ということや、「長く使ったうえでのレビュー」なども知りたいと思います。そのうえで、メディアにどんな機能を実装すべきか考えてみました。
◆ハッシュタグ(#kagu等)のついたつぶやきを表示するウィンドウ
→ユーザーの家具選びに関するtweetが表示される
例1)「木目のきれいなベッドがほしい #kagu」
例2)「このソファーほしいー(url) #kagu」
◆画面中央部では上記のウィンドウを参考に、記事が投稿される
例)「ナチュラルモダンな部屋作りに必要な10のアイテム」
例)「6畳一間におけるソファー特集」
◆一般の方のブログ記事を表示させる機能も実装
例)「(ソファー名)を買って過ごした3か月まとめ」
◆上記2種類の記事欄には、いいね!ボタンやコメント欄も実装。
→つけられたコメントをまとめて表示するウィンドウも実装する。
→それらのコメントを参考に、さらに記事(+ブログ記事)が投稿される。
→継続的な流れへ。
以上のようなモデルを考えてみました。
投稿情報: 本宮 | 2011/04/22 17:37
「家具の情報」を取り扱う、と決めたとたんに考えるべきことがたくさん出てきたり、あるいは検討事項が具体的になったりと面白いですね。
今後は、仲間内で継続的に議論したり、考えを深めていって欲しいです。必要があれば(時間外の)勉強会など設けてくれれば、参加もしますよ。
投稿情報: Atsuo Fujimura | 2011/04/25 11:51
藤村さん
コメントありがとうございます。
はい!これからもイメージを検証するために、目的を絞った具体例を想定して考える事を意識していきたいです。
また、新しいビジネスをするために必要な想像力・発想力を養っていくため、積極的に周囲の人たちと意見交換をしていこうと思います。
お忙しい中アドバイスをくださり、ありがとうございました!
勉強会など開催する際はお声掛けさせていただきたいと思いますので、お時間があえばまたいろいろとご指導いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
投稿情報: 本宮 | 2011/04/25 17:06