中途採用こそ、「企業合同」によって成果が生まれる未開の地ではないのか?---−−−「ソーシャルによって既存の採用媒体も人材会社も必要ではなくなる」という発想について、企業合同によるダイレクトリクルーティングの実現可能性という点から捉えてみたいと思っています。
■ダイレクトリクルーティングとタレントプールの観点:
ザッポス社の事例においてもそうであるように、ダイレクトリクルーティングの成功条件とは、「企業がミスマッチのない人材層とコンタクトを多く有する」ことで、「採用をタイムリー(ジャストインタイム)に実現する」ということだと考えています。
そのためには、「いかに有効な“ タレントプール ”を実現できるか」という問題を考えることになるでしょう。
(a)「転職潜在層」、「将来的な顕在層」が、自分たちの目の前に居続けてくれるか。関係を維持できるかどうか。
(b)その「タレント」が実際にどのような能力や資質を持つ人材か、明確に把握できるか。マッチングの基礎となる「人物把握」ができるかどうか。
この2点がうまく機能し始めれば、ダイレクトリクルーティングへの道が大きく開けます。
これまで、上記を実現するような仕組みを独自に実践しようとしても、リソースが追いつかないという理由(人的労力/コンテンツ不足/金銭面のコスト負担など)で、やりきれなかったり、結果としての人材リストがすぐに陳腐化してしまう(転職者はフローであり、DB的なストックに向かないから)というような理由で、実現が難しかったものです。
だから、求人広告で一時期に母集団を集めるほうが効率が良かったし、人材紹介会社に成果報酬フィーを払ったほうが良いという判断が成立しました。
しかし、実現を難しくしていたのがそれらの理由なのだとすれば、この後で述べる「企業合同」と「ソーシャル」の発想が、課題を解決する緒(いとぐち)になる、という仮説が立てられるというのが今回のブログの主旨です。
■方法論、あるいは執るべき試行錯誤について:
ザッポス社の解決方法は自社独自のSNSを運用すること、でしたが、上記(a)(b)がポイントになるのであれば、そういった方法ではなくても、私たちがまず最初にやるべきこと(=私たちにもできること)が見えてきます。
有効なタレントプールへの第一歩とは、「すでに人材像を把握した人たちとの関係維持」が近道ではないかということです。・・・・・・すなわち、「自社に一度応募してくれた、素性をすでに理解している人たちとのつながり」から始めるのを正道と捉えてみたらどうだろうか、と。
そのための手掛かりは、毎年実施している(いわゆる)「新卒採用」にあるはずです。
新卒採用では相当数の人材と毎年かならず接触します。その中には、自社に対する志望度も高く最終面接まで進んだ(高評価を得た)人材が、時々に相対的な判断で不採用になってしまうケースも少なからずあるでしょう。また複数社の内定を得て悩んでくれたものの、内定辞退のうえ他社を選んだ人材も数名いるかもしれません。
こういった人材との関係を、「今年の新卒採用が終了したので、あなた達との付き合いもすべて終了です。さようなら〜。」にするか。「一度形成されたエンゲージメントを良好に継続できる仕掛けを持つ」か。その判断が、これからの中途採用に非常に大きな影響をもたらす時代になってくると思っています。つながり続けるための手法やツールは、これまでに比べて格段に選択しやすく、多くなっているからです。
必要なのは、「いちど製品を買わなかったユーザーを切り捨てて、新規顧客の開拓に注力する」……という今までの採用マーケティングの思考から脱却していく、ソーシャルな発想です。内定を辞退した人にコーヒーをぶっかける(笑)のではなくて、その後も一緒にコーヒーを飲む機会を作り続けるということ。
アイティメディアに中途採用でジョインしてくれる候補者が、実は数年前の新卒採用にエントリーしてくれていた人たちであるというケースや、内定辞退した学生が「アイティメディアいい会社だと思う」と、数年後に、友人を中途入社の候補者として紹介してくれたりというケースは、少なくありません。そこから採用に至る確度はとても高いので、今後もますますケースとして増えてくると考えていますし、増やすために何をするか?を仕掛けとして、あらためて考えるのは必然的なことだと思います。
これらの人材は、すでに高い資質を企業側が確認できており、転職潜在層ながらも将来の顕在層として強く捉えられるはずです。しかも「新卒採用」という機会設定で毎年何人も出会っているものです。
このような人脈を重視するにあたっては、「人材紹介会社も採用広告も必要ない」のは当然です。さらに言えば、広告や人材紹介ゆえに発生している「初対面での面接」という、もっとも曖昧なアセスメント手法に頼らなくても良い、という「ミスマッチ低減」の付加価値が大きいことも間違いありません。
反面、そういった関係を応募者と維持しようと思っても、継続に困難があるのは、自社だけのコストやリソース、コンテンツや吸引力のみで、優秀な人材を惹きつけ続けることが難しいからです。いつまで、どのくらい続けていれば成果につながるのか?全員が成果に結びつくわけではない、もしくは成果に結びつきそうな人は数がそんなに多くないという状態を、どう解釈して業務として続けるのか?
そこで、今だから考えてみたいのが、「企業合同」と「ソーシャル」による課題解決の発想だ、ということになります。
■企業合同でつくるコミュニティ、ソーシャルなネットワーク:
たとえば業界内の企業同士で専門的な勉強会やオープンな研修、または参加者同士のネットワーキングパーティーなどを継続するためのコミュニティを合同で形成し、各社が上記のような層の人材を集め合って、得意な領域でコンテンツや機会を少しずつ出し合い、フィジカルに交流を保つ場を作りやすくする。(←何が効果的かいろいろ企画する必要あり。それこそ焼肉を一緒に食べるでも良い?かもしれませんが)
メディアへの露出働きかけの機会も増えたり、本人や周囲の友人に告知の機会も増える。オフライン/フィジカルで出来上がった関係をオンライン/バーチャルのコミュニケーションに連携して維持し、広げていく。そして、新卒採用が毎年行われることで、年齢の階層が徐々に積み重なっていく。そこに新たなつながりが生まれ始める。
こういった企業連携活動に、ソーシャルなツールやテクノロジーを重ね合わせれば、継続的な接触をこれまで以上に容易にし、OnLine to OffLine(O2O)で人々がつながり続けることを(少なくともその努力を結果に結びつけるためのプラットホームとして)現実的にしてくれるのではないでしょうか。
また、それらの機会が、何らかの研修や勉強会のような種類のものであれば、先述した
(b)その「タレント」が実際にどのような能力や資質を持つ人材か
という点を明確に把握していく仕掛けも、だんだんと洗練できるでしょう。初対面で面接するよりも、継続的に学習や発言の場を共有することは、マッチング判断の方法としても優れていると思われます。
ザッポス社の例は、自社でSNSを準備して実現していますが、それと同じ「ソーシャルなネットワーク」を、企業合同の場でも行うことができるのではないか?と。
■コミュニティに参加するモチベーション:
加えて、今後、優秀層を中心に、自己成長のために「社外コニュニティ」に参加し、つながるケースはますます増えてくるはずで、参加者層の裾野も広がってくるでしょう。すでにその徴候があちこちで見られます。
特に、自主性と専門性が高く求められる仕事が増えるほど、これからは社内での経験やマネジメントによるもの以上に、社外のネットワークを軸にスキルアップの機会を得る認識が高まるものと考えられます。そんな時代には、たとえば「我が社は競合他社に勤めるエンジニアの彼について、その雇用主よりもよく知っている」ということが、頻繁に起こっても不思議ではありません。
それらキャリアに関連する機会創出を、企業が1社で内製化して行うものよりも、企業合同によるバリエーションをもって、オープン・コミュニティとして運営するほうが、参加者にとって大きなモチベーションを提供できる、そして企業側にもメリットがもたらされるということは容易に想像できます。
そして、前編で強く述べた、「A社に興味を持った人が、結果としてE社とつながり、それが実は最適解であった」という事例は、数多く出てくるように思います。極端な例を考えれば、企業同士で人材を紹介しあうことが出てきても不思議ではありません。これらを「マッチングの本質」だと捉えることが採用担当者にとってクリティカルな観点になるとも思います。
もちろん、これを「他社にとられてしまうかもしれない」というデメリットと捉える企業判断もありえるはずで、ここが各企業のスタンスの分かれ目になるでしょう。
「資産とは自らが作ったものを囲い込むことで生まれる」という考え方からは、「一度自らが獲得したものを全体でシェアすることが、より大きな成果を生む」という価値判断は難しいかもしれません。
以上のような時代背景を共有するならば、採用担当者の新たな視点は「新しい人材紹介会社をいかに見つけるか」とか「採用広告をいかに上手く打つか」とかいうことではなく、自分たちの手によって潜在層へのアプローチをいかに実現するか、という方向に進んでいくべき環境になっているのだと、考えざるを得ないのです。
なお、今回はあえて「新卒採用」という枠組みからの展開を持ちだしましたが、以前このブログでも書いた「新卒に限定した採用をそもそも考えなおすこと」は、今回の施策との接続性や親和性が高いということも重要な観点だと考えています。
そんな時代の人事担当者(採用担当者)の役割や働き方は変化してくるでしょう。その認識と共に、新しい行動を起こしていきたいと考えています。また、人材業界としてのあらたな価値を生む種も、いくつも内在されていると思います。
今回のような企業連携の中途採用コミュニティは、具体的に計画が動き始めています。興味ある方いらっしゃれば、ご連絡ください。
(文責:人事・採用担当 浦野)
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