アイティメディアは前回(2014採用)から「新卒採用」の看板をおろし、新卒に限定しない採用に移行しています。前編ではその背景となる当社の考え方や実践方法についてお伝えしました。
この後編では、現状の「新卒採用」をとりまく課題を解決しようとするとき、採用担当者として対峙するべきであろう、いくつかの考え方をまとめておきたいと思います。
■倫理憲章の議論が象徴する、構造的な不毛さ:
日本の「新卒採用」の構造的な問題を象徴しているものの一つが、倫理憲章の議論でしょう。毎年行われるこの議論は本質的ではなく、不毛であるとさえ考えている人事担当者の方々も多いのではないかと思います。
倫理憲章を取り巻くのは相変わらず「時期をどうするかの議論 (…12月か3月か、どっちがいいのか)」で、それが本質的な問題を解決などしないことを、皆が理解しているからです。
そもそもこの議論は、若者のキャリアの可能性を、在学中の就活という一択だけで考えるところから始まっています。12月にしようが3月にしようが、問題が根本的に解決しないのは、選択肢を狭める議論にしかなっていないからでしょう。わたしたちなりの、この問題に関する観点は、「時期の議論」のような細かい調整をいい大人が考えるのではなくて、「選択肢を広げる可能性」という根本について議論をしたいというものです。選択肢を多様にする議論が本質であって、時期の問題などは相対化されるはずだからです。
今でも、意志ある若者の中には、大人たちのご都合な思考パターンに対して流されず、自律的で、多様な経験の道を選択し、普通の就活レールに乗らずともキャリアの道をつくっている人々がいます。そもそも若者とは、そういうパワーを潜在的に持っているでしょう。そういう可能性を、大人の都合で一律の発想に押し込め、「効率的だから。」というような理由で、行動を規定するのが良いとも思えません。可能性のある若者が、まずはいろいろな選択肢を試してみようという社会的な構造を作り、そういった人材が増えることの方が、企業の中長期の成長戦略にも合うはずだと思います。
だから、そういう志向を潜在的・顕在的に持っている若者に対し、「仕事探しは、卒業してからでもまったく問題ない」と考えている企業がたくさん存在している事実を、きちんとアナウンスする意味は大きいと思っています。
少なくとも、「アイティメディアの採用はそう考えている」と伝えたいですし、実践したいのです。
具体化するにおいては、既卒者や、就業経験者(現在働いている人)が参加しやすいフローやプロセスを準備することも重要です。特に、評価の仕組みは必要で、そこで示す「求める人物像の定義」「期待する仕事の定義」については、採用戦略・人事戦略の根本として、殊に重要になるでしょう。
私たち採用担当者の仕事は、企業戦略を実現するための「入口」に携わるものです。その観点に立ち返り、そして現在の事業環境を踏まえれば、キャリア選択肢の多様化と事業成長の関係について、自社なりの結論を出しておきたいところです。人事として、変化に先回りするために。
■時代が変わるんだから、方法も変わる:
「他社の動きに合わせないと、先に良い人材が持っていかれる」、「外資の青田買いをどうする」というようなことも(慣習的に)考えがちですが、もうそのレベルの議論はとっくに終わっていて、「他社と横並びで新卒採用をすることで本当に問題が回避されるのだろうか?」という根本的な問いのほうを常々考えています。他社と横並びで採用をしていたほうが「自社が採用すべき人材」にアピールできるのか、それとも、そこから脱却する選択をしたほうが、自社が求めるタイプの優秀な人材にアピールできるのか。
優秀な人材の考え方も行動パターンも、変化していくでしょう。今後の自社を支える「良い人材」とは何なのか、その「良い人材」をこれまでと同じ発想・同じやり方で追い求めることは、やはり正しい成果に繋がるのか、など、論理立てて考える必要を感じています。
企業が何らかの活動を行うことによって人々から得るべき「新たな共感」とは一体どのように形成されるのか、そのために実践されるべきこととは何か。これまでのやり方では実現できない可能性が大きいことだけは直感的に理解できます。これからの採用担当者に必要な能力は何なのか、求められる課題解決は何なのか、この視点の先に見えてくるものがあると感じます。
また、ここでは詳しく取り上げませんが、すべてが大学卒業後の人々の話ではなくて、大学1年生でも2年生でも「求める人材であれば良い」という議論だってあるはずです。今の倫理憲章の議論よりも、そっちの議論の賛否や妥当性を詰めていくほうが、よっぽど重要でしょう。
いずれにしろ、「現状維持」から離れて、実際に変化を起こそうというときには、当然のように困難を伴います。実は、もっとも大きな問題は、新卒採用とは、採用担当者が人事として未熟なままでも出来る仕事になってしまったことだと思っています。あえて構造的な変化をもたらそうとしない理由も、そこにある。
だから「前例が」...、「しがらみが」...、「経営層の理解が」、……などなど、「やらない言い訳」も、出そうとすればいくらでも出てくるものです。
でも、それを採用担当者が言ったらおしまいじゃないかなと思っています。
なぜなら、「分かっているのにやらない」理由を言い訳する若者が面接に来たら、わたしたちはその人材を絶対に採用しないはずだからです。
■最後に: 1社だけでやることの限界と可能性:
アイティメディアの採用チームは、このスタンスが今後の成長にとって必要な戦略だと考えているので実行をしていますが、自分たちも同じようなフェーズにあると考える企業や人事担当者も多いのではないかと感じています。
大切なことは、このような問題に対して、意識している企業や担当者が意識的に発言し、行動し、行動から得たものをさらに発信し、明示していかなければ変化が起きないだろうということです。同時に、小さな力の集まりに大きなアドバンテージが生まれ、1社1社のちいさな変化が伝播しやすい時代になっていることも明らかです。採用の現場におけるインターネットの最大の効用は、その観点にほかならない。ナビサイトがインターネットの最大の効用などでは、まったくない。本来、コンピューターやインターネットのテクノロジーとは、「小さなものが、小さなままでもエンパワーメントされる」ために存在し、進化しているはずだからです。
「新卒採用」に関わる変化は、学生にとっても大変なことですし、大学にとっても大変で、企業にとっても大変なことです。既存のモデルの中で、うまい商売をしている人達が多いことも重々承知しているつもりです。大学生と仲良くすることだけ考えるのも、楽しいでしょう。でも、自分たちに関わる苦しさを避けて、ラクな変化を待っているような姿勢が、いびつな構造を常態化させていると考えて間違いありません。犯人探しではなくて、自分たちの立場からできることをやり始めないと、仕方がない。自戒を込め、そう考えています。
「今の新卒採用は間違っている」と言っている採用担当者の方々の話を聞くにつけ、その話の中身は「だったら新卒採用から脱する覚悟をすれば、解決の糸口になるのでは?」というものが多いのですが、残念なことに、殆どの場合は現状を憂うだけで終わってしまい、解決のために方向転換しようという担当者は少ないというのが事実です。
数多くの企業が議論をし、変化を実践する担当者がその成果を共有する状態になることで、初めて構造的に変化が起こり、初めて声は届き、人々が当たり前のように自己責任に根ざしたキャリア選択ができる社会状況になるのだと、期待したいです。
極端な話、アイティメディアだけがやっていても、アイティメディアが目先の採用に成功するというくらいの話であり、その成功談を共有したところで、仕方がないなとも思っています。
「素早く変えた人たちから、成果を得る」という状況をつくる。それは良いことだと思うのです。
(文責:人事・採用担当 浦野)
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