前回のエントリで、“ 新入社員研修のシェア ” を事例として、育成環境の創出について、いま考えていることを書かせていいただきました。
端的には、「自社に最適化する人材」を育てようという企業側の態度(もしくは、そういう人材でありたいとする個人の態度)は、時代に合わない視野狭窄のような状態になってしまわないかという問題提起です。ゆえに、ソーシャルが台頭する今こそ人事は新しいことを考え、チャレンジできるタイミングである、という意思表明でした。
これは人事視点の「育成」という領域に限らず、企業活動のいろいろなところに当てはめるべき全体原則として考えたつもりでいます。
今回は、より身近で具体的な事象に目を移して、あらたな育成環境の創出を考える為のいくつかの想定と、今後のシェア活動の動きについての考えを、まとめてみたいと思います。
引き続きこれらの領域に関心ある皆さまには、お付き合いいただければと思います。
■INDEX:
1.育成の最終目標「次の時代のリーダーを育てる」視点
2.成長を促す「フィードバック」と「競争意識」の確保
3.これらを「環境」としてどう作るか
■1.育成の最終目標「次の時代のリーダーを育てる」視点
今回のシェア研修の件を、日経ビジネス(オンライン)で取り上げていただきました。
最初に取り上げたいのは、その中でも触れている「リーダーの育成」という視点についてです。
育成の最終目標がいくつかある中でも、「次の世代のリーダーを育てる」ということは多くの企業にとって最重要なテーマと考えてよいでしょう。---次世代のリーダーとはどうあるべきか??それを育成する環境要素とは??---これらの想定は、環境変数が読めないなかで非常に難しい課題ではありますが、大きく考えると方向性はいくつかに分類されると思います。
ベンチャーにいる私たち担当者が、その方向性のひとつとして捉えているのは、これまでのような大組織では企業の成長・存続のための優位性を維持しづらいケースが増え、小組織のほうがテクノロジーの恩恵によりさまざまな(時には大組織よりも大きな)アウトプットを提供できるようになるだろう、という前提です。そのうえで、そこに必要となるリーダー像を想定するというもの。
工業化する社会に適うような大組織になる必要はおそらくないし、そうなることのデメリットのほうが逆に多くなる。使えるリソースは外部に柔軟に求め、コアとなる価値観と意志決定、その実現スピードを優先するような組織(の集合体)であることがそこでは想定されます。
こういった組織を有機的に活動させるポイントは、他組織との有効なコラボレーションやユーザーとの新たな関係性の構築であり、それらを適宜スピーディーに行ったり解除したりすることで、求められる価値をいちはやく具体化するリーダーないしメンバーの能力でしょう。
このような組織をイメージする際に捉えておきたいこととしては、これまでのイノベーションが企業の側が発想しユーザーに提供されていたのに対し、今のイノベーションは、変化するユーザー行動の側に生まれていて、つまりこれまでとは逆の流れのほうが重視されるという事実であり、それが今後の企業活動にどのように活かされるべきかという検証にあると思います。ユーザーとの新しい関係構築を念頭に切り替えられない組織や人材は、世の中の大きな動きから取り残されてしまわざるを得ない、というところまで想定する必要があるかもしれません。
この観点において、「自社最適化」の視点に閉じた育成が、他組織との関係においても、ユーザーとの関係においても著しく意味を欠くことになり、新たな時代に求められるリーダーを輩出できないものとなっていくと、やはり仮説されると思います。
同時に、組織が機動的に小さくなるということは、リーダーとなるべき人材の「数」自体が、今まで以上に必要になってくるということでもあります。組織のトップ=経営レベルのコミットメントや資質が求められる新しいリーダーやその予備軍の数が、現在と比べて圧倒的に必要になる、ということです。
大組織では中間管理職という位置付けになってしまうかもしれませんが、その位置づけとは異なる、意思決定の権限を握るべき人材を充分に育成し保有できるか否かが、今後の育成計画のKPIにもなるでしょう。
国家単位で考えてみても、日本はそういう人材を大量に輩出できないことには、新しい世界や産業構造においては後れをとってしまうということかと思います。
そんな意味からも、新しい世代(例えば今年の新入社員たち)を中心に、はじめから自社外に視野を広げる環境が提示される必要があるのではないか、そんなふうに考えています。
新入社員研修をシェアしてみることの目的(意図)のひとつには、こんな想定が背景になっています。
■2.成長を促す「フィードバック」と「競争意識」の確保
先述したような組織が、現在のような企業形態なのか、経済活動を目的とする組織以外もそうなのか、一人がひとつの組織にのみ所属するのか、などは本当に様々なのだと思いますが、忘れてならないことは、それらの組織が小さいことの意味は「そのほうが生み出す価値が大きくなる可能性があるから」という点にあるべきで、「世の中に大きな貢献はしなくてもいいから、組織は小さくていい」ということでは決してないということでしょう。
同時に、組織が小さいほど、個人の成長が組織の成長に与える影響は大きいという観点も取り逃すことは出来ません。
これまでの企業は「成長する=組織が大きくなる/売上規模が大きくなる」でしたが、これからの「成長」はそういう方向で捉えるものではないでしょう。その組織や個人が社会(他の組織や、ユーザー)と繋がり・連携する能力を高めることで、提供できる価値を増やし、(組織は大きくならずとも)アウトプットの市場価値や影響範囲を高めていくことが成長である、というように捉えられると思います。
であれば、そういった状況に適した個人の「成長」について、あらためてもう一歩具体的に考える必要があるのだと思います。
今回の研修シェアをした5社の担当者の間では、「成長」を促進する2つの要素をより柔軟に獲得できるという点が、シェアを実践することのメリットであったと感じています。
その要素のひとつは「フィードバック(をいかに受け、いかに活かすか)」であり、もうひとつが「競争意識(をいかに正しく確保し、方向付けるか)」です。
この2つの要素は、これまでも人の成長を決定づけるとして認識されていたもののはずですが、加えて、あらたな(ソーシャルな・シェアされた)環境を活かすことで、これまで以上の機会と効果が得られるものでもあるはずだと実感しています。
(直感的にそんな気がするという方も多いのではないでしょうか。)
◆「フィードバック」
人が成長するときというのは、自ら何らかの気づきを得ること(理解し腑に落ちたとか、アタマの中で意味がつながって必然性が認識されたとか、実際の結果に触れて心底思い知ったとか)が大きな機会となると思います。何かに気づくためには、ひとりで山にこもったり教典を与えられれば何かを悟れるとしてもビジネスの世界でその方法はきっと難しくて、それよりは自らが関与する経験を増やし、発信する量を増やし、そこに他人の経験・実地から何かの言葉や指摘をフィードバックしてもらうことのほうが、気づきと成長の質を高める機会としては優れているはずだと思います。
そういった行動と「フィードバック」の量は、多ければ多いほど良いと個人的には思っています。また、社内の人間だけが的確なフィードバックを与えられるものではない、とも考えています。社外の師たちから教授される学びが多いということは歓迎するべきところで、今はそういった機会をどのように創り出すか、またはいかに適切な場としてフィードバックを機能させるか、というのが人事担当者の頑張りどころであると考えたいのです。
自社最適化の枠を超えた育成を実現しようとする場合、大きなポイントは、フィードバックの視点を社内(組織内)に限定しない工夫にあると思います。それは、これからの組織が他組織やユーザーとつながりによって新しい価値を創出するために、必ず備えるべきひとつの機能でもあるでしょう。言いたいことは、小さい組織になればこそ、育成の場は外に開かれ、多くのフィードバックを得る機会を効果的に創出するべきだろうし、それが行いやすくなるはずだということです。それをわざわざ人事が制度で阻害するようなことは、あってはならないでしょう。
(※参考:今回のシェア研修を受けている宮尾さんのブログです。「社会に育てられている」という言葉の感覚は非常にぴたり来ると思います。)
◆競争意識
成長に欠かせないもうひとつの要素として「競争心」を取り上げたいと思います。人事担当者ならずとも、競争心の欠如が企業や日本の総合力を下げる原因になっていかないか、という憂慮は多くあるかと思います。
今の日本企業・日本経済においては、競争したところでその結果(リターン)はたかが知れているといった感じで、競争すること自体に意味を見つけるのが難しい時代の空気になってきているようにも思われます。
でもやはり企業の経営、組織のマネジメントを考えたとき、勝負に勝っていかなければなりません。そこは生存競争なわけで、勝ち残りたいと思っていない人たちが成長したり成果を出せるような事はない。
どのような経済環境においても、何らかの方法やきっかけによって「競争の意識を引き出す」ことは育成戦略のもう一つの大きなポイントになると思います。
この「競争心」をいかに育てるか、という点についても、研修・育成環境のシェアや、フィードバック豊富な環境は、ひとつの解決方法になると考えます。
事実、自社だけではなく他社の同世代と顔を合わせ、同じプログラムを消化し、あらゆる成果が比較される状態にあることには、私たち大人が想像する以上に、「競争する」意識を高める効果があるようです。
そんな実感から、合同研修の施策では、プレゼン大会、開発コンテスト、ディスカッションのような、結果を競わせるプログラムを重視した設計をしたり、お互いのアウトプットを共有する(その質を比較できるようにする)、という機会を重視していくことになると思います。ここでは、他律的なマインドを自律的なものに変えていく効果が大きく期待されるでしょう。
また、他方で、「競争意識」の中身が以前とは異なってくるのではないかということも、ここで加えて考えてみたいと思っています。これから必要になる「競争意識」とは「他者と競い合う意識」というよりも「当事者意識」とほぼ同義と捉えられるように思うからです。
これまでの「競争」は、マーケットを同じくする競合他社との競争(マーケットシェア獲得とか)が主に想定され、定義されていました。しかし、今起きていることはこれとはやや異なっていて、自社が取り組むべきイノベーションの種類やその質は他社の存在とは関係なく、各々のビジョンによって主に定義される時代になったということだと思います。いまのイノベーションとは、今現在マーケットが存在しないものを創造しようとしている可能性が高いわけで、であれば、他社製品などを設定した競争の定義というものはそもそも想定しうるものではない。競争するべき相手は自分たち自身(の目標設定)にある、と。
「われわれが理想とする姿にどう近づきたいか」という達成意識は、他者の存在ではなく自律性がその条件となるという意味でも、「当事者意識」というほうが語感が近いように思います。
だから今この時代に「自ら理想を高く設定する」ことがどれほどできるか?が成長促進のための課題となり、特に若い世代にとっては理想を描く際の視点の高さを意識できる環境提供が、とても重要になるのだと思います。
そのように考えてみることで、他社との関係を競争関係に閉じ込めていしまうのは、紛れもなく「自社最適化」な発想であることに気がつきます。それよりも、自らの視点を高めるための関係を、他の組織との繋がりに求める発想がますます必要になるのではないでしょうか。やはり、育成環境のシェアというような、外に開いていく発想が、大きな役割を果たすことになるはずだと考えます。
■3.これらを「環境」としてどう作るか
さきの日経ビジネスの記事において、最後に、こんな風に的確なまとめをしていただきました。
“ 社会人として一人前にしてやろうという「新人教育」ではなく、新人が持つ成長性を信じて「新人環境」を創ることを主目的にしている点で、従来の人事部の発想とは異なる。”
ここまで書いてきたことの視点や、5社合同研修を実施している目的は、何かの面白そうな合同施策をひとつ行いましょう、というものではないつもりでいます。
大きな環境変化に対応するビジョンについて共有し、あらたな価値観を創造し、その取り組みをどう具体化するか、という話でありたいと考えています。
私たちが大切に考えるのは、「提供するのは施策ではなくて、あくまで“環境”である」ということです。一つ一つの施策はそれを状況に応じて形にするから変わっていくでしょうし、参加するメンバーの状況によっても変わると思います。そしてなにより、施策なんていうものは人事が準備せずとも、環境を与えられた参加者の間から自主的に生まれてくるものであることが理想だと思っています。それを阻害しない、できれば促進するような環境を提示したい。
「施策」を提供するのか、「環境」を提供するのか、、、この視点の違いは、とても重要だと考えています。
文責:人事・採用担当 浦野
コメント