情報を得ることが難しい時代であれば、情報量=価値という等式は成り立ちます。量に価値が比例する。だから情報量の増加を支援するビジネスにも強いニーズがあった。量を多く発信できる人(組織)にも価値があった。
しかし、現在のように情報を得ること自体は容易で、さらに差別化されない情報が大量に発信されるようになると、情報は選別することのほうが大切だという状況になります。量を最大化することへのニーズは弱くなり、質の最適化が強く求められるようになってくる。
ソーシャルメディアが受け入れらている状況は、それを端的に表しているでしょう。情報を得るときに必要なのは、量の最大化よりも、信頼する友人知人の「いいね」をフィルターとする選別のほう。そういった選別は納得感があり、受け入れやすい。
これを情報を発信する立場から見ると、一方的な思惑で情報を届け、行動をしてもらうという、昔ながらのマスマーケティングの想定がだんだん難しくなります。
採用の世界の話では、たとえばリクナビ2014は、いよいよユーザー(就活生)ごとのフルカスタマイズへと変化を遂げようとしている、とのこと。
リクナビが変わるというのは象徴的です。大きなトレンドとして、学生が触れる情報は最大化ではなく最適化の方向に動くということを、採用担当者は意識せざるを得ない。
その一方で、採用企業側のロジックは、こういった「脱・最大化」ともいえる状況に対応しているでしょうか。------直近のところで、わたしたち採用担当者がもっとも強く考えなけばいけないポイントがここにあると思います。
採用母集団をなるべく増やす、ゆえにばらまく情報も増やす(【量】の最大化が価値)、という発信者側の取り組みは、受信側の選別優先のニーズとは相容れないロジックとなっていて、戦略の前提からして違ってしまうのだと。
就職活動の領域において、価値の所在が最大化から最適化へと変容する背景には、Web1.0的設計が施された大手ナビサイトが推進し続けた「情報量の最大化」および「母集団の最大化」というコンセプトが限界を迎え、その様々な弊害が認識され始めたということがあるでしょう。また、経団連が独特の発想のもとに促進することとなった、就職活動の短期化という理由も間違いなく大きい。
就活生は、短い時間で大量の情報をすべて捌き、的確な判断をせよ、なかでも自社に応募せよ、と。
さすがにこれはもう限界にきている。
インターネットの役割(それを使うことの意味)とは、GoogleやSNSの事例を見るまでもなく、本来、マッチング精度の個別最適化に向かうはずです。決して、量の最大化が最高の効用ではなく、目的地でもありません。
“出現率”といった確率論に頼る闇雲な量の最大化ではなく、中身が最適化された量の最大化(=最適なマッチングの最大化)をいかに実現するか---。
でも、採用の現場においてはそれがとても難しい。まさにそこが課題です。
その理由は、まず、就活生側に情報をきちんと選別・判断するための知識や経験がないということでしょう。社会に出てビジネスをした視点がないので、仕事の良し悪しを判断するに足る知識は限られています。判断する知恵を持った大人との繋がりも、そんなに多くないでしょう。
片や企業は、量で解決する以外に、伝達する相手を細かく選別するターゲティング手段を持てていないし、たとえ手段があったとしても(“リソース的に”)そういった手間はやりきれない、となることが多い。
だからといって、何もしないままでは成果は期待できなくなってくる。発信する量ばかり増やしても届かない。母集団を増やすという一本槍では、成果が出ない。確率論を脱し、最適なマッチングを増やすために、そろそろ、何らかの方法で、時代の趨勢に合わせた新たなシステム(アルゴリズム)を各社が見出さなければならい。そして、それを採用活動の真ん中に挿入する必要がある。これは新卒・中途に限らずでしょう。
リクナビはこの視点において、新たな方法論を提示しようとしているのだと理解できます。
また、「ソーシャルリクルーティング」も、本来はこのポイントで挿入されるべきアルゴリズムのひとつです。(最近そうではない事例ばかりなのですが、今回の本題ではないので省きます。)
今回のタイトルに掲げた「Web5社による合同選考」を実践している背景にも、こういった課題感があります。
■5社合同選考とは?
資本関係もない企業同士が、合同で採用活動(告知、セミナーから一次選考まで)を行ってみようという試みです。アイスタイル、アイティメディア、カカクコム、デジタルガレージ、リッチメディアというWebビジネスを行う5社で、2014新卒採用の一環として実施しています。
まず、採用活動の告知やセミナーを5社が共同イベントとして行い、その後の一次選考の場にも、5社の人事が揃います。就活生は、合同選考を1回受ければ、5社ぶんの選考を受けたことと同じになる、という建て付けです。
現状の母集団優先の就活システムのままでは、就活生は当然のごとくたくさんの説明会に行かざるをえません(時間と電車賃をかけて)。履歴書やエントリーシートを何枚も書くことになります。SPIをあちこちで受け、一次面接ではたいだい同じことを聞かれ、あげくには膨れ上がった母集団を捌くためのGDとかGWとかの足切りシステムからわざわざ参加させられるケースも多いものです(授業を休んでまで、それに参加する)。
お互い「出会うべき企業(人材)に出会えるか」を実現するための活動のはずが、出会うための機会を奪い合い、削り合うようなことをしている。個別最適化と母集団信仰から生じるこのような事態から、まず脱することが必要だと考えた施策です。
「合同選考」という施策が明示する方向性は、今後の採用活動のあり方に、何かしら価値ある一石を投じるものでありたいと5社共々考えています。最適なマッチングを実現する「ひとつのアルゴリズム」を提示できるのではないか、と。
■「合同選考」というアルゴリズム
「あなたが出会うべき企業が、より多く見つかる。」「出会いたい人材と適切に出会う仕組みをつくる。」ことを実現したい。
今回の合同企画を設計するうえで、最大のポイントと考えているのは、求める人物像が近い企業、同じ業界の企業同士で合同することです。いわば採用競合する企業同士の連携です。一見無茶なこの点が「最適な出会い」のためのアルゴリズムの要(かなめ)だと考えています。
こういった5社の合同であれば、ある1社に興味を持った学生にとっては、他の4社にも、その興味に共通する発見が何かしらあるはずです。各社の仕事がもたらす価値や、求められる能力の類似性を知ることになります。自分の能力が同様に求められる企業だから意味がある。自分の判断や検索ではたどり着かなかったかもしれないが、それらの企業が合同していることがきっかけとなって、あるべき出会い(求め合う人材と企業のマッチング)が効率的に増える。
これが最適なマッチングを増やすために有効に機能するものだと、考えました。
とはいえ、ただ一緒にやるだけでは「ただの奪い合いになる」というデメリットのほうが大きくなってしまうでしょう。就活生側のメリットと、特に企業側のメリットをどのように捉えるのか---?という点を考えなければなりません。それがあってこそ、意味を持ちます。
1. 「就活生にとってのメリット」をどう設計するか?
2. 「企業5社にとってのメリット」をどう意図するか?
3. 「その他の企業へのメリット」もあるはず?
■企画の設計 1.就活生にとってのメリット
企業側の都合だけで進めても、誰も興味を示してくれないでしょうし、状況の改悪となっては意味がありません。
就活生にとって最も大きなメリットは、「自分が興味を持つであろう企業/自分を求めてくれるであろう企業と、自然に効率的に出会うことができる」。そして、「その選考のための手間を短縮できる(1回で5社ぶん)」ということになるのですが、合同だからこそ意味を持つ、次のような工夫も考えました。
(1)選考の工夫: 結果通知に、必ずフィードバックのコメントを付ける:
同じ場に各社人事が同席して、同じ話を聞いて選考しても、判断が分かれることは当然あります。就活において絶対的な正解を探そうとしても意味がない。参加する就活生の方々には、そんなことを気づいてもらえればと考えています。その点を明確にするためにも、結果通知の際には必ず、フィードバックコメントを、5社それぞれが書き添えています。
こちらの会社では評価されなかったことが、あちらの会社では評価される。マッチングとはそういうもので、最適な出会いとは、その気づきから生まれると思います。自分では見つけていなかった企業のほうから、高く評価されたりする。合同選考でのフィードバックは、それが分かり易く実現できる場になるはず。
きっと「あらゆる会社で内定を取る就活生が正しく」、自分もそうならなければならない、という(量に偏った)勘違いから、就活は苦しいものになってしまうもので、決してそんなことはないんだ、マッチングが重要なんだと気づいてもらえるといいなと思っています。
(2)スキームの工夫: 各社選考への重複登録も可能:
この5社は、合同企画とは別に、各社それぞれの通常選考のフローも持っています。就活生は合同企画に参加してもいいし、参加したくない場合は、志望する企業の通常選考にエントリーすればよいのです。また、合同企画の選考で残念な結果となっても、そこで得た知識やフィードバックを糧に、各社それぞれの通常選考に参加することが可能です。
就活生にとっては何もマイナスなことがない、という状況をつくっています。
(3)セミナーの工夫: 各社の共通項と違いが理解できるものにすること
セミナーを合同して行うと、各社は共通項を知ってもらうのと同時に、「自社の違い」を明確にしなければ、応募者を惹きつけることができません。その「違い」とは、同じ業界であれば、最終的には各社の「お金の稼ぎ方(の構造、優位性やポリシー)の違い」という点以外にありません。案外、個別の説明会であればここを重要視している企業は少ない。各社が説明会自体に同席することで、このポイントを強く導き出す内容にならざるをえない。
就活を進めるうえで、もっとも重要なのはビジネス視点であるはずで、その視点を就活初期に得ることは、本人たちにとって他企業を見る際にも、大きなメリットになるはずだと考えています。
ちなみに、この点においては、やはり資本関係のない企業同士で行ったほうが効果を生むと考えます。利害が近い(例えばグループ企業)同士ではなかなか切り込めないところもあるように思います。
■企画の設計 2.企業にとってのメリット
では、企業にとってのメリットは何でしょうか。そのための企画/運営ポイントは---?
私たちは次のように考えています。
【1】5社間での母集団最適化:
求める人物像が似ている同業界の企業でも、実はアプローチできている得意な学生ゾーンが違っていたり、母集団の様子は少しずつ(あるいはまったく)違っているのが現実です。
さらには、各社がアプローチできているその学生ゾーンが、本来その企業が求める人材ゾーンと擦り合っているか?というのも、とても大きな問題で、ここが課題になるケースが多いものです。
※このあたりは各社個別の課題がより具体的なものとしてあり、それが書けるとさらにおもしろいのですが。たとえば、本当はWebの技術に関心のある人を採用したいが、運営しているコンテンツに惹かれた母集団が膨らんでしまう、とか、営業が欲しいのにWebサービスの新規開発に興味ある母集団が膨らんでしまうとか。いろいろあります。
各社が合同しようと考えた時、それぞれの得意・不得意を補完しあうことで、各社の母集団の適正化やターゲット修正が施されるであろうことが、大きなメリットだと考えました。
自社にはちょっと合わないが、優秀な人材であり、あちらの会社では合うはず……といったマッチングの相互乗合がわかりやすい例となるかもしれません。
【2】5社ともに届いていなかった学生への共感アプローチ:
就活生にとって意義がある施策を実践できる企業と感じてもらえれば、共感による注目は増えるはずです。この時代なら、バズも起こり易いでしょう。
「新しい、意義がある、面白い」ということで企画自体の存在が広まっていけば、5社がいずれも接触できていなかった人たちにも、情報が届く可能性があるということは、もう一つの大きなメリットとして想定しました。
一般に、多くのBtoB企業が苦戦するのは、自社の採用にいかに注目してもらうかというところで、その解決は喫緊の課題でしょう。採用活動を始めたばかりのベンチャー企業についても同じことが言えるかもしれません。
各社がこういった企画を実施すれば、告知効果は持ちつ持たれつで数倍に増えますし、たとえば合同していない同業界の他企業たちとの差別化を図ることができます。
ソーシャルでの拡散もそうですし、実際に日経新聞やNHKに取り上げられるなど、一定の効果があったと考えています。
【3】あたらしい試みに賛同する学生へのアプローチ:
繰り返しになりますが、闇雲に母集団を増やしたいのではなく、出会うべき企業と人材との出会いを増やしたいというのが目的です。
Web業界が求める人物像として、「新しいことに好奇心が持てる」「経験したことがない事に躊躇なく飛びこめる」「横のつながりに価値を見いだせる」というポイントが、およそ共通していると思います。また、Webの世界においては、個人も企業も、内側に閉じた個別最適化を考えていてるようでは成長がなく、他社やマーケットとどのように協業するか(その能力やセンスを持っているか)が、ビジネスにおける大切な資質になってきます。こういった資質を持つ人材をターゲットとし、アプローチしたい。
ならば、「企業間の“横のつながり”から生まれた、これまでにない新しい挑戦」である合同企画に共感・賛同する人、選考に参加までしてくれる人たちは、まさにわたしたちが採用のターゲットとするべき人材像に近しいはずです。
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上記のようないくつかの点から、最適な出会いを増やすためのアルゴリズムとして合同企画は成立し、十分効果やメリットがあると考えました。
また、上記のようなマッチングの意図以外にも「人事同士が、各社の採用ノウハウを学び合える。あたらしい企画と運営のやリかたを学べる」とか「人事同士がつながって採用以外の施策にも展開しそう」とか「数年後のキャリア採用(転職)の時に選択肢として効いてくるのでは」とか「合同企画で各社に入社した人材がその後もつながることの効果」とか「単純に面白いことは価値」とか、いろいろと細かいことを補足的に考えていたりもします。
もちろん、これらのメリットの一方で、合同した他社に人材を持っていかれる可能性という(わかりやすい)デメリットもあります。手間の問題もあります。最後は、やはり採用競合同士で、メリットとデメリットのどちらが大きいと判断するか?です。今回の合同企画に集まったのは、メリットのほうが大きい/やることの価値が大きいと判断できた、5社でした。
■企画の設計 3.関係ない企業に与えるメリット
就活生が、就活に関する時間や手間を削減することができるとすれば、(たとえば、合同企画のおかげで3回分の説明会参加が省けたのだとすれば)その空いた時間で、まったく別の3社ぶんの説明会に、参加できているのかもしれません。この理屈が正しいのであれば、合同企画が各業界で拡がっていくことによって、より多くの就活生の時間が削減され、より多くの企業がそのメリットを享受できるはずだと思うのですが、いかがでしょうか。
■最後に:
これらはまだ継続中の企画であり、選考もすべて終わったわけではないですし、ここから実際にどのような結果がもたらされるのか(内定に繋がるのかなど)、未確定要素は多いです。
今回のブログでは、現時点でお伝えできること、合同選考を始めるにあたって考えた意図や工夫などについて書きました。
「で、結果どうなったのよ」というあたりについては、次回の、このブログで共有できるといいなと思っています。
おそらく、
・やってみてわかった「デメリット」とその解決
・実践のために必要なことと、その大変さ
・マッチングの精度を高めるために、やはりデータ量が必要なのでは
といったあたりが、考察ポイントになるかなと考えています。
ただ、この時点であっても、結果について1点だけ言えるのは、賛同し、応募してくれる若者たちが多くいる、ということです。一次選考の予約枠は一気に埋まってしまいました。加えて、とても多くの就活生の方々から「他の企業も、こういうことをやればいい」と言ってもらえている、ということです。
そして、今、何かをはじめなければならない状況であろうということです。
文責:人事・採用担当 浦野
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