求人広告や人材紹介エージェントがほとんど利用されなくなる時代が、もうそこまで来ているのでしょうか。
ザッポス社が、人材の採用について、「求人公募」を一切やめるというのが話題になっています。(下記引用記事)。同社は今後の採用活動において、独自のSNSを用いたダイレクトリクルーティングのみを行い、募集広告などの一般的な求人行為は、一切行わない、とのこと。
大胆に見えるこの戦略的な舵切りに、2つのことが見て取れます。ひとつは、「人材採用の100%をダイレクトリクルーティングに切り替えることが必然」だと同社では既に理解されているということ。もうひとつは、その時に必要な方法論が「ソーシャルツール」であり「コミュニティによるタレントプール」であると、経営的に判断されているということです。
今後の同社の理想像としては、(1)採用を目的としたコミュニティ運営が活発に行われ、(2)企業と求職者がお互いのコミュニケーションを通じて相互理解を深め(⇒ミスマッチをなくす)、(3)適切なタイミング(≒ジャストインタイム)での転職マッチングを実現していく、・・・という3つのアクションになるのでしょう。
マインドの共有や社風を最重要視する同社ならでは、という捉え方ができます。
と同時に、「ソーシャルとは何か」「企業活動がどう変わるか」を理解し、そのパワーを経営に活かそうと考えれば、このような事例が出てくるのはとても自然な流れだと思います。決して米国の特殊な1社の事例なのではなく、これからあちこちの企業で始まるトレンドの、一番最初のわかりやすい事例だという捉え方をしたほうが良いと思っています。日本でもWantedlyの急伸などは、これと意味が共通する、代表的な事例だと思います。
■わたしたちはこの動きをどう捉えるべきか:
わたしたち(日本の)採用担当者も、求人広告や人材紹介会社に頼っていては超えられない限界・不便を、既にたくさん認識しています。それに出くわすたびイライラするわけですが(笑)、それを広告内容のせいにしたり、紹介会社の質の低さように言って話を落ち着けてしまいがちです。
しかし、本当はそういう問題ではなく、それらの限界を自分たちの力で超越する方法を、本気で考え始める時期にいま来ていて、実行に移すための思考実験や行動を、具体的にとり始めるべき時期だということでしょう。個人的には、そんな時代の変わり目が急に現実化してきた気がして、焦り始めています。
当社の場合は、2008年11月にTwitterの企業採用アカウントを動かしはじめて以降、完全に「採用広告」や「ナビサイト」の利用は止めました。(おそらく日本企業の中で3番目のTwitter採用アカウント)
これからの時代の採用の姿は「広告等によるマスアプローチ(母集団拡大主義)とは違うところ」に答えを求めたいと考えるようになっています。
2012年当時、プレジデント誌のインタビュー(以下引用記事)などで話していたことは、
極端に言えば求人メディアはもとより人材会社もいらなくなる
ということでした。2012年。そのころすでに認識されていた方向性であることに間違いありません。ポイントは、「ソーシャル」を、どう理解できるか、だろうと考えています。あたかも「FacebookやTwitterを使うこと」くらいに考えていると、上記の言葉など、現実味がないと思われるかもしれません。
個人的には2012年当時と考えの根本は変わっていませんし、それどころか、あと数年も経てばこの状況がもっともっと具体化してくるはずだと考えています。ザッポス社の例は、特別な例ではない、ということです。もはやそこに疑問を持つという段階は終わっていて、「どう取り組みを進めるべきか?」ということのほうを真剣に考えるべきだという思いを強くしています。
■採用担当者のミッションは変わらない。方法が変わる:
そこで、「どう取り組むべきか」を考えるために、あらためて採用担当者のミッションを端的に表現すれば、
(1)ミスマッチなく採用を行うこと。
これに尽きます。自社にとって最適な人材を採用すること。入社する人にとって自社が最適である状態。
そのためには“ 自社の事業成長を理解し、フィットする人物の定義(戦略立て)を行う ” ことが大前提になります。次には“ ミスマッチのない人材をどこから、どうやって見つけてくるか? ” という手法の話に展開していきます。
いま特に重要なのは「潜在層」「自社がリーチしきれない層」へのアプローチとエンゲージメントの可能性でしょう。顕在層よりも、潜在層のほうに、自社の欲しい人材が多くいるのは間違いないからです。これまでの求人広告や人材紹介会社の限界は、まさにここに端的に表れています。
更には、それを
(2)できるだけムダなく(安価・安定的に)
(3)可能な限りジャストインタイムに
実現すること。ここに価値が宿る。
そう考えると、例えばザッポス社のような極端な選択も、同社にとって(1)(2)(3)を実現する順当な方法なのだと理解ができます。
「採用費用が少ないからできることが少ない」、というのは古いマスメディア時代の発想にとらわれすぎだろうと思います。また、「経営はスピードが大切だ」と言っているのであれば、採用がジャストインタイムの実現に向けた努力をしないのは、気持ちが悪い。
採用担当者にとって、この(1)(2)(3)が己の仕事の根本価値だと整理してみたとき、「潜在層にアプローチできない」 「自社とのエンゲージメントが難しい」 「投資対効果が曖昧」 「他者が媒介することで、かえってコミュニケーションのクオリティが下がる」・・・というような現状の課題をクリアする方法が、現実に新しいテクノロジーと共に生まれようとしているのであれば、私たちのミッションは、(求人広告や紹介会社が変われ、ではなく、)自分たちのほうから変化することではないのか、ということです。
■マッチングの本質に近づくための方法はあるか:
とはいえ、普通の企業にとって、ザッポス社のようなやり方をいきなり実行するのは非現実的でしょうし、自社の戦略に合致するかも考える必要があります。やはり根本に立ち返ることによって、自社とミスマッチしない実現方法を、自社なりに見つけ出す必要があります。
弊社では以前、自社にフィットした「(1)(2)(3)を実現できる可能性は?」と考えたうえで、あたらしい企業合同(5社合同選考)のしくみに挑戦したことがあります。採用広告や人材紹介では果たせない新たな層とのマーケットコミュニケーションを如何に実現し、採用成果に結び付けるかという試みです。
「企業が合同して選考まで踏み込む」ことのメリットについては、以前のこのブログでも整理しましたが、その最たるものは、「普通では出会えていなかった企業と人材との【最適な出会いの創出】にある」と実感しました。応募者の初期判断の壁(= 少ない情報量の段階で、嗜好的に取捨選択してしまう =そもそも出会えないという状況)を超えて、マッチング機会を獲得し、ミスマッチを回避するデザインとして優れているという実感です。
ここで「企業合同」の事例を、ザッポス社の事例と並べるのには、理由があります。
この企業合同の発想を延長し、中途採用の領域にうまく取り込むことは、ザッポス社の例とまったく同じ、“ マーケットコミュニケーションの「場のあり方」に手を加えること ”であり、結果として「ダイレクトリクルーティング」実現の方向にむかうと考えているからです。今回のブログは、この方法について考えていきます。
例えば、5社合同選考では、「4社から☓だけれど、1社から◎の評価が出た」「その1社は、もともと受けるつもりのない企業だった」というパターンが全体の8%出現しました。
その8%の人々は、◎を出した企業を目当てに選考に参加したのではなく(つまりその1社がリーチできる層ではなく)、企業合同ゆえに偶々出会うことになった。合同で選考まで踏み込んでいたから「君にとってぴったりな1社は、当社だ」という判断がお互いにできた。8%(12人に1人)は、自分の嗜好に従っていては見つけられていない1社に「だけ」フィットする可能性がある。ならば、その出会いの可能性をどう現実化できるかが、今後の採用活動の在るべき方向や付加価値になる。このデータは、そんなことを予感させます。
ザッポス社の方法は、人材が自由に集まる場をSNSでつくり、「そのコミュニティで重ねるコミュニケーションを通じて相互理解を深め」、ミスマッチ回避や適宜採用を実現しようとするのだと思います。
企業合同の方法は、複数の企業と同時にコミュニケーションする場をつくり、「いろいろな企業が同じ選考の場を共有することで」、もっともフィットする企業が見つかりやすくなる方法です。
ミスマッチのない採用を効果的に行おうとするとき、この両者の取り組みは形は違えど、マーケットコミュニケーションの「場のあり方」に手を加えることで目的に到達しようとする志向は、共通するものが多いはずだと考えます。
この取り組み自体は2014新卒採用で行われた1例ですが、新卒採用でも中途採用でもアルバイト採用でも自分たちなりに実現できる「求人広告・人材紹介会社を通じたマーケットコミュニケーション」を超える方法論の、大きなヒントになると思っています。
(ついでに言えば、企業が合同することの目的を「母集団をたくさん集めて確率論を高めるため」とか、「すべての企業から合格がでるような一部の学生を見つける」とか言うのは、上記の本懐からは外れてしまうことに気づくべきでしょう。ナビサイトを使う発想と何も変わらなくなってしまいます。)
■中途でも合同=ダイレクトリクルーティングへの道:
このあとのブログ(後編)の本題は、この延長線上で、「企業合同」による新しいダイレクトリクルーティングを実際に成功させる方法についての、思考実験的な話になります。
そろそろ私たちは、継続的な「ダイレクトリクルーティング」の実現に向けて、動き出せる環境を得ているのではないか。いつまでも高い採用費を外部に払って、限られた顕在層にしかアプローチできないような、従来の採用活動を今年も来年も再来年も反復していて良いのか、(自分たちが果たすべきミッションと考えていて良いのか)、ということが出発点です。
本当は、潜在層の中にほど、良い人材がいる(だから、そこにこそアプローチするべき)ということも、普通の採用担当者ならば、もう十分すぎるほどわかっているはずだからです。
・・・
後編では、「本来のソーシャル」を考えていくと、やっぱり既存の採用媒体も人材会社も必要ではなくなるのではないか?という(あえて、ちょっと思い切った)発想について、ダイレクトリクルーティングを成立させる方法論の考察から、捉えてみます。
(文責:人事・採用担当 浦野)
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