就活ナビサイトがもつ影響力は、日本の就職活動にとって避けられないものです。なくてはならない仕組みであるけれど、制度疲労というような捉え方で、その弊害が取り上げられることも多いと思います。
リクナビはver.2014からの方針として「ユーザー(就活生)ひとりひとりに最適化する」という、いわば「パーソナライズ化」を打ち出しました。就活ナビサイト最大手が行うこの大きな方針転換は、現場の採用担当者として(そして就活生にとっても)好感をもって迎えたいものでしょう。
(※その取材記事)
“ 一人ひとりの活動状況などに合わせて、異なるリクナビを表示しています。 ”
“ レコメンド機能に留まらず、ログインした瞬間に完全にパーソナライズ(個人にとって最適化)されたコンテンツが表示されるようにしました。 ”
就活ナビサイトをWebサービスと捉えれば、ユーザーを「塊り」ではなく「個々人」と捉え、最適化する方針への転換は納得感が高いものです。また、新卒の就職活動という人生の大切な一時期を左右するサービス(=就活ナビサイト)の最大手が行う判断だと捉えれば、社会的責任を果たす意識も強く表れているものだという印象を受けます。
就活生は、決して十把一絡げなのではない。これまでのアプローチを企業も見直す時期に差し掛かっているのだ。……そんなメッセージが具体化してきたのだと受け止めたいものです。
他社のナビサイトや新卒採用サービスが、この動きを受けてどのような変化をしていくのかも、興味深いところです。
■取材記事を読んでみてわかったこと
「これなら、弊社でも再びリクナビを使うこともあるかなぁ…」(^^)とか、呑気にあれこれ考えていた折も折、まさにそのリクナビの新しい方針やアルゴリズムについて、現場を取材した記事が掲載されていました。
以下引用する記事がそれで、2週にわたるものです。
リクナビの「パーソナライズ化」とはいかに実現されるのか。そこには次代に向けた思想がいかに具体化されているか。そんな内容を期待して読んだのです。 が、、、
残念ながら、これらの記事から分かったことがひとつあります。
それは、「パーソナライズ」と聞いた当初期待した姿と、現実の姿とは、だいぶ異なっているということです。大きな方向性としては確かに賛同できるもののはずなのに、新しいリクナビのアルゴリズムについては、採用担当者として、まったくしっくりこないのです。
実際に何が「しっくりこない」のか、現場の視点で整理すると、
(1)リクルートの言う「やりたいこと」と、実際に「やっていること」の辻褄が合ってない
(2)「やっていること」にも、感心できない
この2点が、大きな理由です。
今回のブログは、この(1)(2)についての個人的な考えを記すものですが、一方で大切なのは
・「なぜ、そんなことが起こるんだろうか?」
という理由を、あわせて考えることだとも思っています。結論としては最後に書きますが、端的には、「リクナビだけの問題にしていては何も解決しない」ということです。
就活ナビサイト全般に何か課題があるとすれば、その問題の本質は、すべて企業側の採用姿勢にあると捉えざるをえない。私たち担当者が、今回のリクナビを「映し鏡」にして、理解しなければならないのは、そこだろうということです。
ついては、以降、特にリクナビに限定する必要があるとき以外は、汎用的に「就活ナビサイト」という言い方をします。
■(1)辻褄が合わない
就活ナビサイトが「個々人への最適化」を行う意義とは、「最適なマッチング」(と、そのための「最適なデータランキング」)を実現することにほかならないでしょう。
すなわち、出会うべき企業と人物が見つけ合い、知り合うべき両者が必然的に知り合える仕組みに、どこまで近づけるかということです。これは、ナビサイトを利用するユーザーおよびクライアントのそもそも根本的なニーズなのです。
では、その「最適なマッチング(およびデータランキング)」とは何なのか。あたらしいリクナビの考え方について、引用記事でリクルートの方がこうおっしゃっています。
“ 百貨店に行きたいと思っている学生が、いきなり「プラントの設計会社に行ってみよう」と思う人はほとんどいません。その学生がプラント設計の適性があっても、自分で企業探しをしていては、プラントの設計会社を見つける可能性は低い。
でも、私たちが「あなたは実はプラント設計の会社が向いていますよ」といった情報を提供することで、その人の就活を支援できればいいなあと思っています。 ” 前編P6
パーソナライズやマッチングに関する、この例えは非常に分かりやすく、私たちの考えとの大きなズレはないでしょう。この言葉にある通り、仕事と人の最適なマッチングをもたらす基軸は、「向いていますよ」、という「適性」の照合です。
そして、この「適性」という言葉に含有されるのは、
・その仕事(企業、業界)で活躍できる能力や資質の合致
・そのビジネスに関する志向性の合致
で、間違いないでしょう。
実際に、これら両方の視点においてマッチングが促進され、個々人に最適化されたデータランキングが実現するのであれば、まさにあるべきパーソナライズ!というほかありません。これは使いたくなります(笑)。
しかし、です。
記事を読み進めるほどに、辻褄がだんだん合わなくなってくるのです。
最適なマッチングを目指すため、新しいリクナビはどのような分析で実現するのか、語られている箇所を、いくつか引用してみます。
“ 学生が企業を志望する「軸」を探しました。…(略)…「業種」「勤務地」「年収」など、軸になりそうな観点で分析を始めたのです。 ” 前編P3
“ リクナビでは、学生の直近の行動結果を元に、Aさんは「こういう行動をしている」→「こういう軸を持っている」→「こういう企業に興味があるのでは?」といった方法で約60万人の会員それぞれに合う企業を推薦しているのです。” 前編P5
“ 「学生自身が何に興味を持っているか」をベースにランキングを作成したほうが行動喚起につながるのではないか? という仮説を立てました。 ” 後編P2
“ 最後に「Aさんはこういう企業に興味があるのでは?」と推測して、企業リストを作るんですよ。 ” 後編P3
これらの言葉によって掘り出されることはもはや明らかです。リクナビのいう “ ビッグデータ ”を用いた解析によって作り出すアルゴリズムとは、
・就活初期の「好き嫌い」を読み取り、
・「興味」を軸に測定し、
・それらに合わせた情報提供を行う、、、ということです。
この時点で私が理解する限り、リクナビの目的と手段の図式はこうです。
「やりたいこと」(目的) :「適性」に合わせた企業・業界の提示
「やっていること」(手段):「興味」に合わせた企業・業界の分析
「適性」と「興味」。採用の現場で問題意識を持っている方々であれば、この両者には因果関係や必然性がほぼないことを、容易に理解するものと思います。就活の初期というタイミングで“ 視野を広げ、活動量を増やして貰う必要がある ”(前編P3) と意義を捉えたうえで、ビッグデータを用いて取り組んでいるのが、なんと「興味」に合わせたレコメンドという状態です。
やりたいことと、やっていることとの辻褄が合うのでしょうか??辻褄の合わないことをやる理由は何でしょうか??それがよく分からない。……これが、しっくりこない第1のポイントです。
■(2)感心できない
一方で、辻褄が合わなくても良いとする考え方もあると思います。
「適性」なんて言うから辻褄が合わないとかなるのであって、そもそも、興味傾向の分析でレコメンドが機能すれば、学生の行動はドライブされるし、実際に内定の数も増えるから十分良いとする立場です。
もしそうだとするならば、しっくりこない理由は明白です。
「それじゃあ今までと何も変わらないよ」、という、がっかり感です。感心できない。
ほんの一部の上位層の学生たちにとっては、いい仕組みかもしれない。「興味」を持ってもらいやすい一部の業界にとっては、いいかもしれない。そういった学生と企業を引き合わせる件数は増えるかもしれない……でも、それを今さら促進して終わりでは、もはや仕方がないと思うのです。
いま私たち採用活動の当事者たちが、それぞれの立場で、より良い姿を模索するべきだという時代観を持っているはずです。苦しみ続ける学生、採用がうまくいかない企業の続出、結果としてのミスマッチの続出、早期退職の問題など、日本の生産性や健全性を低下させる状況を、それぞれの立場から、もういい加減、何とかしないといけない。
私たちはそれをなんとかするべき立場にいる。
そういうときに、就活ナビサイトは本質的には何も変わろうとせず、「興味のある企業にたくさんエントリーしてみましょう、ほら、こんなにたくさんの企業がありますよ!」と、マッチングしたフリをするのであれば、それを見せつけられた私たち現場の担当者は、ナビサイトを捨て、まったく違う方法論を考えざるを得ない。
ビッグデータを利用することの本懐とは何でしょうか。
実際にビッグデータを持つ就活ナビサイトだからこそ、新たな発見の手助けやマッチングができるはずです。「学生視点の興味本位で進めてしまう」というのでは、現状の就活問題をそのまま放置している。能力・適性の発見やマッチングにフォーカスする思考からこそ、解決に向かうものではないでしょうか。
そのことによって、若者自身も気付いていない適性の発見、すなわち「新しい軸の提示」になることが、 “ 百貨店を希望する学生に、プラントを薦める ” ということのはずです。
もちろんそれが企業(クライアント)のためにもなるというのは、言うまでもありません。
新しいリクナビの方針が、本当に「好き嫌いの分析」であったり「興味という軸探し」の高度化というのであれば、それは就活ナビサイトが、ECサイト的進化を目指そうとする過ちに思えてしまいます。
でも、就職活動はモノの売り買いではないはずです。「求める→求められる」という一方通行の符合で成立するものではなく、就職は、当事者間の「求める=求める」及び「求められる=求められる」が合致しなくてはならない。
「好き嫌いの分析」や「興味という軸探し」をますます強化するのが、これから行うべき新しい方針だといわれても、情緒的にも論理的にも、しっくりこないのです。
■なんでこんなことが起こるのか
今回の結論部分に入っていきます。
さきほど、就職は商品売買とは異なり、当事者(企業側、就活生側の両者)が、お互いに「何を求めるか」と「何を提供できるか」を示しあい、マッチングさせる場だと言いました。
そう考えれば、今回のようなしっくりこないことが起こる理由は明確です。
企業と学生が、「何を求めているか」、「何を提供できるか」を、明示できていないから。それ以外に理由はありません。今回のテーマに即して言えば、企業も学生も「マッチングのために必要となるデータとして」明示できていないということです。
いま、日本の就職活動(採用活動)の現実は、データによる明示どころか、お互い「なんとなくこういう感じ」でしかやっていない、というものではないでしょうか。
ここにおいて、実はリクナビの問題うんぬんは主題ではないことにも気が付きます。
そもそも就活ナビサイトとは、企業と学生をつなぐ「ツール」にすぎないので、繋がれる両者が必要な情報を提示し合わない限り、まともなマッチングができるはずがありません。
ナビサイトが「ツール」にすぎないということは、リクナビがパーソナライズの方向に向かう議論の中ではおそらくとても重要なところです。リクナビの価値が「マス広告メディア」だからという認識を変えていく議論につながるからです。「パーソナライズ」と「マス」という時点で発想に矛盾が生じるということは自明で、採用担当者は、この当たり前のことに、あらためて気がつき、行動を変えていく必要があります。
企業側が「何を求めているか」、「何を提供できるか」を明示できない、それはあたかも「マス」向けな曖昧さに最適化されているのではないか、という点について私たち採用担当者が自戒を強く込めるべきものです。
「企業が学生に求めるものなんてどの企業もだいたい同じ」という事実。コミュニケーション能力とか志望度とかいう選考基準の曖昧さ。役員の一言で結果が変わってしまう面接。企業が出す情報の画一化。ご機嫌取りのような万人向け情報の羅列。
これらは採用した人材の中長期アセスメントを真剣にはおこなっていないという証拠でもあるでしょう。さらに重大なことには、「必要な自社の姿、変化、そこで求められる人材の能力、資質」に関する仮説が一切立てられていないということでもあるでしょう。もしくは仮説が立てられているのに採用の現場に実践できないということかもしれません。
もはや、人材要件はどの企業もだいたい同じで良いとか、なんとなくいい学生が採用出来ればそれで良しとかいう時代ではないと、私たちは認識しているはずなのに、です。
一方、大学生はどうかと言えば、貴重な人生の一時期を得た割には、自分たちの世代にとっての社会のあるべき姿や自分の40年50年を思考することなく、子供の頃と相変わらずの消費者気分のままで就職活動に突入していく。提供者に必要とされるビジネスの論理に思考回路が付いて行かずに、ビジネス視点で自分の中の大切な情報が何なのかが判断できない。だから自己分析をやり始めても、そもそもの発想がずれているために、インプットもアウトプットも的外れということになります。
大学はどうでしょうか。「まじめに大学に来て勉強しろ、それが学生の本分である」と言いながら安易なインプットを続け、簡単に単位を出してしまう。だから大学の成績というアウトプットの信ぴょう性なんてこれっぽっちもなくなるし、真面目に大学に出席していましたという学生の評価軸も曖昧になる。加えて、大学生の親はいまだに大企業・有名企業に子供が就職することがステータスだ安定だと介入する。就職課はその間で行ったり来たりしかできない。
就職や採用をとりまくそんな行動を、「ビッグデータ」として取り扱って、個々人に最適化させ、「適性」に従ったデータマッチングを実現しようなんて、無理です。
私たち採用担当者は、その中でも企業側にいる立場の人間です。まず、いろいろ言う前に、自分たちが行うべき「人材と仕事の条件定義」や「必要なデータの明確化」をしっかり行わないことには、話になりません。繰り返しますが、個々人に合わせたパーソナライズの動き自体は、今後すすむべき方向性に間違いありません。だかた、そのために有効なデータを蓄積するということが今後ますます企業にとっての重要なテーマとなってくるでしょう。その視点ひとつをとってみても、今の採用の仕事は、曖昧すぎと言われて仕方がないと思います。
で、そんな状況なのにも関わらず、「ビッグデータでいろいろ分かってきた」と言い、「学生はこう動くべし。」「企業のみなさん、良い学生が見つかりますよ。」としてしまうのがリクナビの今の姿。これもよろしくない。
本来のマッチングのために必要となるデータは何か?という追求が各企業で必要になるでしょう。就活ナビサイトはそれを実現するツールとしての設計およびサービス構成が考えられないと、これまでと同じことの繰り返しに思えます。ユーザーやクライアントは、このまま納得し続けてくれるでしょうか?
■最後に
企業の「求める人物像」/「そこに必要となる能力・資質」/「選考活動の判断傾向」/「内定と入社後成長の傾向」/「獲得人材の能力と企業成長の相関」……などをデータとしていかに引き出すか、学生の能力や資質をどの角度から明確化するか、ということです。
再びナビサイトに話を戻してみると、採用担当者や学生本人たちがこれらを言語として明示できなくても、行動結果のデータとして引き出してくる方法は、実際のところは様々ある「はず」です。
特にアセスメントのポイントになる能力検査・適性検査やその分析ノウハウを持ち、媒体や紹介サービスを入口に全国の現場の動向を掴め、ナビサイトの管理ツールによって状況をほぼリアルタイムに把握できる「はず」の大手ナビサイト運営各社は、それができる位置にいるでしょう。
そこを追求していくのが、「ツールとして」プラットフォーム化するナビサイトの本領だと思います。「マス広告メディアとして」の延長線上を追求しようとしても、制度疲労だ何だとなるのでしょう。
どのデータを活用したときにビッグデータとしての価値が生まれるのか、そのためには自社の複数サービス/ツール内で企業や学生にどういったレコードを残してもらうのか、という、プラットフォーム観点での変革が必要なタイミングだと思います。
そのときの重要ポイントはたったひとつで、「あるべき努力をする企業と学生ほど、マッチングの益を得る」ということです。知名度ではなく。DMの数ではなく。大学名ではなく。あるべき努力の継続が、企業や人材の存在を浮き上がらせられるか、どうか。
そして、企業(採用担当者)は、手を尽くさなければ有効なデータが蓄積されないという要点を理解し、実行に移さないといけません。それが採用担当者のあるべき努力のはずです。
就活ナビサイトの状況は、企業ニーズの映し鏡であるということを忘れずにいたいものです。
(文責:人事・採用担当 浦野)
P.S. 今回のブログの情報源が、ほぼ一つのソース(引用した記事のみ)ということで、事実と解釈が異なるところもあるのかもしれません。もしもそうだとしたら、ぜひ指摘や反論をいただきたいです。
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