(長文です・笑 よろしければ気長にお付き合いください)
今更の視点ではありますが、企業活動においてユーザーやマーケットとのエンゲージメントをどう結ぶかというときに、これまでの方法論では通用しないことが多くなっています。採用活動もまたしかり。そこに強く影響している価値観がいわゆる「ソーシャル」であることは間違いなく、しかもこれは人類がインターネットから離れていかない限り、社会アーキテクチャそのものを構造変化させるものであって、その人類史的な大きな動きは止まらないでしょう。
だから、その「ソーシャル」が、わたしたち人事・採用担当者の仕事範囲に今後与える影響について考える必要はとても大きいのですが、前提となる知識基盤を一度ゼロリセットするくらいの覚悟をプロとして持たないと、見るべきものが見えてこないのではないか、という危機感が非常に強くあります。
私たち人事・採用担当者は、何か大きなものを見過ごしたまま、もはや消え行く物事を後生大事に議論してやしないか……。そんなことを考えるにつけ、「ソーシャル」を冠しつつ、実は行動原則も思考パターンも何ら変化していないのが「ソーシャルリクルーティング」の現実か、などと感じることもあります。
「リクルーティング」をソーシャル化するべきだという論理は、それ単独で存在するものではありません。単独だとしたら、その論理は特に必然性がありません。ソーシャル化しなくても良いでしょ…で議論終わりです。
そうではなくて、ソーシャル化する世界が目指すことの中に存在する「人や組織の関係におけるマッチングが最適化する」とか、「マーケット・企業間のエンゲージメントの構造的変化はより良いものになる」という価値観の地平を共有するから、「リクルーティング」もその大局の一部として、必然的に変化するしかないという結論になるはずです。
「リクルーティング」だけソーシャル化しても仕方がないということも同時に捉えなければなりません。
3年近く人事・採用の現場でソーシャルに携わってみて、また最近の状況を見て感じるのは、こんなことです。
■そろそろ、ソーシャルリクルーティングの次のことを考えるために
ソーシャルな価値観が人々の行動判断にどんどん入り込み、社会活動を支えるものになると考えるがゆえ、人事・採用担当者もプロとしての役割を見直さなければならない。
「ソーシャルリクルーティング」は、当初そのような旗印のもとに各所で同時多発的に始まったように記憶していますが、ここ最近のような「ソーシャルメディアを活用したリクルーティング」のことだという発想にいきつく現状では、もう廃れるしかないと思います。そしてその流れは思いのほか速いだろうということも感じています。それはもちろん時代が元に戻るという意味で廃れるのではなく、さらに先に進むという意味においてなのですが。では、それはいったいどういうものであるのか。
時代に先手を打つためには何を想定し自らと自社の行動計画を立てるべきなのか。現場で最近考えているのは、次に起こすべき状況が2つあるということです。
■次に起こすべき状況、その1:
ひとつは、「企業がユーザーやマーケットとエンゲージメントを結ぼうとする戦略が総合化するのに呼応して、人事・採用担当が果たす役割が拡大していかなければならない」ということです。
ユーザー/マーケットに対する企業全体のアプローチが多様化したり、各社による絶対的なコミュニケーション量が増大したりする中では、自社を差別化するために “ 総合戦力 ” を各企業とも推進せざるをえないでしょう。そのときに、採用担当者が担うべきミッションは今のまま変わらなくてよい、ということは考えづらいのです。
今の企業内のセクション分類に従えば、人事・広報・マーケティング・営業・CS・デザインなど、さまざまな角度からのアプローチが、それぞれ想定するユーザーに対して行われますが、それら各セクションが今のまま機能別に立てられた戦略に基づいて、それぞれの方針で一人のユーザーと関わったり、別々のアカウントでコミュニティを形成したり、参加を促したり、ログを個別管理したり、ということは、余りに非効率です。(ユーザーに非効率を強いることにもなります。)より良いユーザー体験を創造するためには、共通化された戦略が良い活動を生むはずですし、それを支援するテクノロジーやサービスプラットホームも整ってくるはずです。それをうまく魅力的に実行できる企業や担当者が、これから強い存在になると思います。
採用担当者であれば、「採用のことだけ考えて、入社希望者や応募者とコミュニケーションしていればいい」という枠組みから飛び出して「自社に何らかの動機で関わってくれるユーザーとのエンゲージメントを、全体像としてどう考えるか」という方向に発想を拡げること。そのユーザーの繋がりの先にあるものや人々への想像も必要です。結果として採用を成功させるためにも、それらが求められるでしょう。
採用担当者という枠組みは徐々に、マーケティングや広報と機能融合されていったほうが効率的だったり、一人の担当者(や、ひとつのチーム)がユーザーエンゲージメントをまとめてを担えると好ましいとも考えられます。そこを担う能力を持つ人は、今後いろいろな企業から引く手あまたになるのではないか、とも予想しています。(だから社内で育てるか、自分がそうなるかしないといけいない)
このときのミッションの中心概念は「メディアのコントロール」なのではなく、「場・コミュニティの活性化支援」や「アクティブサポート」という姿に近づくと思います。企業とユーザーの間に大きな「メディア」が介在して機能していた時代の企業内セクションの作り方は、ソーシャルを媒介にした総合戦略を構築する姿に徐々に進んでいかなければならない。それがひとつ目の「次に起こすべきこと」です。
■次に起こすべきこと、その2:
今起こっている変化が社会構造レベルのものであれば、そこに存在する「働くこと」のアーキテクチャ(組織の捉え方やワークスタイルのあり方)はどうでしょうか。同じロジックを踏まえて変化していくと考えるのが自然だと思います。どこまでどのスピードで、というのは議論・意見あると思いますが、この「働くことを規定する枠組みのソーシャル化」というのが、次に起こすべきふたつ目のことです。
事業戦略の変化実現には、企業としての人事ポリシーとプロセスの総合的な適応が必要不可欠だ、、、と言葉にするのは、釈迦に説法で恐縮なのですが、
・顧客エンゲージメントをソーシャルに醸成する個人/組織のスキルとは?
・そのときの最適な組織形態とは?情報流通システムとは?
・マネジメントやメンバーのどのような活動を支援し、能力を伸ばしてもらうのか?
・そこでは何を評価するのか? 報酬は何に対して払われるのか?
・社内文化を支える判断基準は変化する必要がないか?
など、人事全体の具体的な施策を「ソーシャル化する」視点から見直すこと。採用という入口を作り直すのはそのひとつのパーツであり、人と組織の関係すべての施策に紐付くスタート地点ですから、変化のための大きなキーポイントでもあります。
人事がその全体構造やポリシーを作り直すべきタイミグを迎えるのであれば、採用担当者だから採用の側面だけ新しくしようと考えている、という状況は苦しいと思っています。スタート地点だけ切り離された戦略マップはありえないからです。
いま採用の領域に携わっている担当者であれば、高度化されたネットワーク社会での企業のあり方と、携わる人々の働き方について、人事戦略全体の領域にまたがって発想できるかどうか、これも今後強く求められることだと思います。そして、ここを担う人材もまた、今後不足するでしょう。採用から始まる人事を全般的に見ている人、しかも新しいロジックで組み直すためのロジックを理解し実行できる人って、とっても少ないと思うのです。自戒込みで。
※参考資料:Global Innovation Outlook2.0 【PDFです】
■そのとき必要になる、ひとつの戦略ポリシーがある
上記2つのことを計画し実行する際に、1つの戦略ポリシーが共通して必要になるのではないか、というのも同時に考えられます。その戦略ポリシーとは、「会社や社員の活動がソーシャル化される状況をうまく活用する」、というものです。
ユーザーとのエンゲージメントを総合戦略化するということを考えても、社内メンバーがこれから蓄えるべきスキルやプレゼンスの支援を考えた際にも、「会社や社員の活動がソーシャル化される状況」の推進が欠けたままでは非常に困難な状況となるでしょう。
もちろん具体化する方法に整理は必要だと思いますが、会社や社員の活動が対外的に可視化できている企業ほど、ユーザーとの接触機会を自律的に増やすことになり、社会的・マーケット的な支持を得る可能性を拡大し、差別化を果たせると思います。
しかしこれは同時に多くの企業や担当者の腰が引けるところでもあると思います。
現在、採用ホームページを各社が自社サイト内に作っているのは、「インターネット上に自社の情報がある/それを探してもらえる」ということのメリットについて何らかの判断をしているのだと思いますが、これからも同様の思考をするのであれば、それは「ソーシャルな形で」情報を出せているか、ということが条件となるでしょう。
企業がこれまでの経験に従って一方的な情報発信コントロールを夢見ても、そういった企業に対するユーザー支持は相対的に低くなると思われます。
社内にどのような能力を持つメンバーがいて、日々活動しているか、どのようなキャリアを自社が提供できているか、いま中では何が求められているか、、それらの情報がソーシャルな場に、社員自身の発信によって公開・共有されることで、自社の情報をインターネット上に増加させていくことになります。それらが、ユーザーの目の前に現れ、新しいソーシャルグラフを繋いだり、多くの関係を継続する手立てになったり、ファンを増やすきっかけになったりする。そして人事・採用担当としては、それらを支援するような仕掛け、そのための社員満足度の向上、スキルやキャリアの開発支援、直接繋がれるプロジェクトやイベントを打っていく、、、そんなことが想像されます。
もちろん、コトはそんなに簡単ではないので、発生するであろうさまざまな課題やリスクを解決していく必要があります。ただ判断としては、課題があるからそちらに行かない、ということではなく、その課題をどうやってクリアしていくのかということでしょう。なぜならその方向への変化は止まらないからであり、ユーザーはそこにいるからです。
■“その流れは思いのほか速いだろう”
先述した「今のソーシャルリクルーティングが廃れていくだろう」と考えている理由は、ソーシャルの因果律とは違ったところで独自の存在になってしまっているからです。
同時に、その廃れるスピードは思いのほか速いだろう、ということもさきほど書きました。その理由は、具体的にそれを実現してしまう発想でサービスを始める人たちがもう登場してきているからです。たとえば今話題になっている「Wantedly (http://wantedly.com/) 」のようなサービスは、それを最も強く体現しているのだと思います。リクルーティング側からではなく、ソーシャル側から発想されたサービスが、状況の転換を推進していきそうなのです。
「Wantedly」参考記事:
・“コネ採用”が日本を救う? ソーシャルリクルーティング「Wantedly」の挑戦 -日経トレンディネット
・ソーシャル・リクルーティング・サポート・サービス「Wantedly」 -impresario
・ウォンテッド(Wantedly)ー信頼をベースにした日本のソーシャルリクルーティングサービスが公開 -Startup Dating
■「Wantedly」の登場
「Wantedly」が正式ローンチした直後、CEOの仲暁子さんからお誘いいただき、記念のトークセッションに登壇する機会をいただきました。
ご一緒してあらためて認識したのは、「Wantedly」を既存のソーシャルリクルーティングサービスと同列・類似のものだと捉えてしまうのは、状況を上手く把握できていない可能性があるなぁということです。
わたしたちは新しい2つのことを知ることになります。ひとつは、もはや「ソーシャルリクルーティング」は次のフェーズを迎えるべきだという指摘がそこにあること。そしてもうひとつは、その方向性についての強力な仮説がそこにあること、です。
■「Wantedly」の思想
「Wantedly」の思想が示す次のフェーズへの指摘とは、企業は「リクルーティング」という活動そのものを考える前に、「エンゲージメントの醸成」に対する着想をまず第一に存在させるべきというものです。この着想の転換こそ、次の企業活動の基本となる視点であり、それがゆえに「ソーシャルリクルーティング」の次の姿に求められるものだと思います。
そしてそのフェーズにおいて企業の活動を支えうるのは「ソーシャルに可視化される会社と社員の活動」である、という強力な仮説がここに提示されています。これを支援するのが「Wantedly」のサービスの基本であり、人を採用したくなったので人事が人探しをするというものとは真逆のことが設計されているのではないかと思います。これが、これまでのリクルーティング界隈から生まれてきた発想とは趣旨を異にしてるところで、いわばソーシャル側の発想から生まれてきたサービスだといえます。
「Wantedly」の設計思想の中に、先述した「これから起こすべき2つのこと」「そのとき必要な1つのポリシー」を見ることができるのではないかと、勝手ながら思っています。このようなサービス(が表現している思想)が、今このタイミングで登場してきた意味を理解することは、「ソーシャル」についてわたしたちが現場で果たすべきもう一歩先の役割についての思考整理にもつながるのだと思います。
■トークセッションにて。クックパッドさんの試み
トークセッションでは、クックパッドさん(人事の鷲見美緒さん)とご一緒させていただきました。同社の早々の判断としての「社員のソーシャル上での可視化された活動を支援する」(少なくとも邪魔しない)という発想と実践をうかがい、やはり少なくともテクノロジーやWebの世界で事業をしていく企業であれば、この姿を志向しないといけないだろうなと強く実感しました。
そのときあらためて頭の中で整理したポイントが2つあり、
1.現社員のソーシャルグラフが充実しているほど、それが企業にとっての資産になる。だから社員のソーシャル上での活動を支援し、社員がそこでプレゼンスを発揮できるようなポリシーや施策を早々に組む必要がある
2.いちどコネクトした人(ユーザーなど)との関係を継続または深めていくこと。一度つながったソーシャルグラフも企業にとって重要な資産となる。それをどう継続し深めていくのか、施策に具体化する必要がある
「Wantedly」の設計思想や、クックパッドさんの判断が、それぞれに時代の流れていく方向性をうまく取り込んでいて、さらにそれを具体的に活動に落とし込んでいる、そのジャッジの速さに感銘します。
■アイティメディアのチャレンジ
最後に、アイティメディアはどうなのよ?ということですが。
添付した資料は、その「Wantedly」トークイベントの際に使ったものです。このエントリに書いた内容についてまとめていると共に、弊社の活動についても少し書いています。
もっとも大きな動きとしては、この4月(2012年4月)に評価と報酬の仕組みを刷新します。私(浦野)は、実はこの1年間くらい、この設計と具体化を第一優先ミッションにしていました。(実は採用自体にはあんまり関わっていない。)
ここまで書いてきたとおり、今までのような「ソーシャルリクルーティング」からは徐々に脱したいとも考えていますが、それはともかくとしても、実際に、ソーシャル化する世界を意識して、働くことのアーキテクチャを人事全体の施策として変化させていくのは、ものすごく大変な作業であると現場でひしひしと感じているところです。評価と報酬の仕組み(いわば人事施策の中心のところ)に切り込んで、ひとつひとつ価値を確認し運用の実践をしようとしているところです。大きな挑戦です。社内浸透のプロセスとかも。
「ソーシャルリクルーティング」を始めた時がそうであったように(当時はtwitterの採用アカウントをつくっているのが3社しかないという時代でした)、次に考えるべきことを早く実践し、現場から得たものを、また皆さんに共有・発信させていただければと思っています。なのでまたいろいろなご指摘や叱咤、ポジ・ネガいずれでもフィードバックやご意見いただけれると嬉しいです。
そういったものが「次のフェーズ」を構成していくのだと信じて。
文責:人事・採用担当 浦野
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