ソーシャルリクルーティングという言葉が出回り始めた感じですが、その意味や価値について検証すべきフェーズは終わっていて、人事としてはもうその次の段階を考える必要に迫られていると思います。
検証すべきフェーズが終わっている、というのは、「ソーシャル」はインターネット(でネットワークされる世の中)の進むべき方向におそらく間違いなくて、企業は事業の戦略的重心を移行せざるをえないからであり、その組織運営を支える人事施策の全体に同様の対応が求められるのは自明だからです。
雇用の入口であるリクルーティングにソーシャル化の流れができつつあるのは、そのひとつの現象だと理解するのが良いと思います。
そんな移行期だから、人事の仕事や機能にもさまざまな変化が起こって当然だと思います。リクルーティングのロジックを変えるのであれば、その人材の成長と活躍の場を準備することについて、同時に考える必要があります。そんな当たり前を実現するためにも、新たな人事におけるロジックを各セクションでいちはやく共有し、目指す変化の方向を一にしなければなりません。
特に、すべての人事施策の目的ともいえるのが社員の「成長支援」ですから、その角度から見たソーシャル化の意味や価値について、人事として考える必要があると思います。
■ソーシャル化する時代のキャリア
成長支援といったときに、「人事として育成施策を組み立てる」とかそれに沿った研修プログラムを用意することだ、とかいうと、それも少し違和感があります。育成施策の定義は「会社の中で成果を出すための教育」とか「自社のやり方に最適化するための施策」という、いわば終身雇用の発想に支えられた前提条件があるように思います。そのような発想を基にした定義は、意味が弱くならざるを得ないでしょう。それよりも、ソーシャル時代にマーケットから求められる個人のキャリア開発を、いかにサポートするか?という捉え方のほうが、育成というファンクションを捉えるときの中心価値になってきていると思います。
例えば、これからは、社内で能力を発揮している人材やその人材のノウハウを、その個人がどんどん外に名前と共に売っていけるようにするべきで、人事とか会社はそれを促進・サポートする役割を担う(そこをうまく担える人事や会社は強い)という発想をしたほうが得られるものが多いでしょう。少なくとも、人事や会社は、そういうチャンスを「妨げる」ようなことは、してはならない、と。
■まずはやってみる
これを実現するための方法論はまだまだ試行錯誤が続くものの、この方向性に関しては確信ができますし、多くの人事の方も同様ではないかと思います。
個人的には、2年前にソーシャルリクルーティングを始めたときも、方向性を信じて方法論を探るという状態でした。まずは「やらないと分からない」のがソーシャルの真髄なので、今回のように方向性にそれなりの確信を持てたら、何はともあれやるべし、やりながら修正するべし。と思っています。
前置きが長くなりましたが、そんなこんなで、具体的には、キャリア開発の場を変えてみようと(まだ研修という小さい範囲ですが)、こんな試みから始めています。
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■試み(1):社内勉強会や研修は、オープン/ソーシャルに共有する
アイティメディアでは、毎月1回、社外から識者を招いて、メディア/Web/テクノロジーの最先端に関するテーマをディスカッションする勉強会を行っています。そんな社内の学習の場を、社外にもオープンにし、私たちが学んでいる姿をソーシャル化(公開し発信し共有)しよう、という試みです。この勉強会に参加する人たちは、自らを“ソーシャルな場のコンテンツ化”することになります。
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■試み(2):新入社員研修の様子を公開する
ソーシャルリクルーティングで採用したメンバーの最初の経験も、やはりソーシャルなロジックで行いたい。ビジネスに対する発想のベースをオープン化することを目指しています。 今年は、講義内容や新入社員の研修レポートをブログやソーシャルメディア上で公開し、社外の方々からフィードバックを受けたり、講師との継続的な繋がりを試みたりしました。来年からは、新入社員研修の多くの場面をUSTなどで公開しようかとも考えています。
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もちろん自社の守秘事項を取り扱うケースには難しさがありますが、世の中で行われているほとんどの研修の目的が、キャリア開発サポートであったり、仕事意識の醸成であったり、特定スキルの習得であったりすると想定すれば、実はだいたいの研修ってオープンにして、ソーシャル化を検討したほうがいいんじゃないかと考えています。
■これらには、何の意味・目的があるか
こういった場をソーシャル化する目的は、大きく3つ考えています。
1.自分が得た情報を公開・共有する発想、そして情報発信能力を意識する機会を得る:
情報を出すにしろ受けるにしろ、能動的に情報に関わり、主体的に考えられる姿勢を身に付けることが、ソーシャル化されていく時代の根本的な資質に間違いありません。
おそらく、ネットワーク上に発信する情報の量と質を増やし、自分自身を個別化(差別化/キャラクター化)する志向は、これからの時代においては、仕事に対するコミットメントのありかたそのものになるでしょう。
反対に、最初から特定の内側への最適化を志向する、従順な「大企業の一員的コミットメント」は、これからの時代には弱すぎる可能性があります。
こういうことは、かなり意識的になってその機会を設けないと、なかなかできません。発想がない場合は、鍛えたり慣れたりしなければならないと思います。「やらないと分からない」というのはこれからの時代の行動原則として貴重なもので、人事が支援できるキャリア開発のひとつは、それを身に付ける場を設けることであると考えています。
2.参加者・運営者ともに、これまで以上にフィードバックを受ける機会を得る:
フィードバックはソーシャルな場で活動することの大きな意義であり、同時に学習の効果を増大させる方法としても理にかなうはずです。講師や人事だけのフィードバックがすべてという(もしくは、人事の思惑に反するような考えが受講者に伝わらないようコントロールすべき--というような)閉鎖的な状況に比べて、より多くのフィードバックを受けられる経験となり、そこでの気づきや成長への発想を得ることが、今後のキャリア開発には必要条件になると考えています。
そして、最後は少し視点が異なりますが、
3.なにより貴重な機会のシェア:
よいコンテンツは皆で共有すればイイですよね。っていう人事側の発想です。運営者側(人事)も、自分たちのやることに対してフィードバック受けたり、良いものをシェアする発想ができるかできないかで、得るものがまったく変わってきてしまうと思います。
■ネットワークのなかにはひとつの真理がある
1.~3.いずれをとってみても、世界がソーシャル化していくことを意識している人たちが気づく真実、つまり、「発信/シェアをする人のところにこそ、貴重な出会いや情報、チャンスが集まってくる」という真理に沿うものだと思っています。この真実をどれだけ肌感覚として得られているかが、これからの時代を生きていくうえで大きな違いになるでしょう。これは、キャリア開発という側面に直結することだろうと思います。
■最後に(一緒にやってみませんか?)
さて、今この段階で、上記1.~3.を「ソーシャル化することの意義」と仮説してみたので、それがうまく回り、新たな効果につながるよう、施策面での工夫を重ねていきたいと思っています。
このブログを読んでいただいている人事担当のかたが、このようなやり方に興味をもっていただけましたら、一緒にいろいろな施策を考えられると嬉しいです。
また、参加者として、オープンな勉強会の場を経験してみようかしら……という方がいらっしゃいましたら、ぜひ当社の勉強会に参加してみてください。
(文責:人事・採用担当 浦野)
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