採用活動にソーシャルメディアを使うメリットを感じられていたとしても、それ以上に“失敗した時の心配”、具体的には「ネガティブなリアクション(その象徴としての“炎上”など)への対応はどうするか?」という心配があって、なかなか踏み出せないというケースもあるかと思います。
特に、採用担当者のイメージするものとして「みん就」や「2ちゃん」が根強くありますので、そのようなリスクがあるオープンな場所にわざわざ出ていく必要があるのか?という心配も、もっともなことだと思います。
今回は、そんな状況にある採用担当者の方々に向けて、私が実際に運用していく中で考えていることをお伝えできればと思います。
最初に私なりの回答を申し上げるとすれば、オープンな場でネガティブなリアクションをもらうという状況は(その象徴としての“炎上”でさえ)、もはや決して避けるべき“失敗”ではない、ということです。
もしくは、これを失敗と捉えていることで、もっと大きな本質的な失敗をしている(ということに気が付かない)可能性があるので、そっちこそ避けるべきと考えています。
先日(6月)の勉強会資料に簡単にまとめたものがあります(P37~P43)が、このブログではそこをもう少し詳しく記しつつ、周辺の話も拾ってみたいと思います。
単に「採用活動にソーシャルメディアを使う」というフェーズから、「本気のソーシャルリクルーティングへ」と概念を高めていく際にも、このことはとても重要なポイントになると思います。
■本当の失敗は「無視されること」
極端な言い方になりますが、ソーシャルな場での“失敗”が唯一あるとすれば、それは“無視されること”だと思っています。ネガティブなリアクションを引き起こしてしまうことではなく、フォロワーが付かない、関心を持ってもらえない、リアクションがない、という状態です。(さらには、瞬間的にフォロワーをかき集めたけれども、それ以降、興味をひけていない、というケースもあると思います。これは後述)
ですからまずは、失敗を心配したり、リスクを考えすぎたりして、場に出ていかないのが、もっとも大きな失敗だということになります。
もはや多くのビジネスの場で、「間違った発言をすると恥をかく。何もしゃべらないのが安全」とか「失敗しなければ物事は無難に進んでいく」という行動原則は、通用しなくなっているだろうと思います。そして、そういう行動をする人材を採用したいわけでもないと思います。
それは、(私があえて言うべきことでもないですが)多くの企業にとって、誰かが作ったイノベーションに無難に乗っかっていれば事業が継続するような状況ではないからだと思います。であれば、私たちが採用戦略として無難な方法論を選択することが正しいのか、いちど振り返ってみる必要があるのでしょう。
自分たちのスタンスが、求める人物像のスタンスと乖離し、無視されてしまうという状況は避けなければなりません。
そして、社内に無難論があるのだとすれば、それは採用担当者として排除していかなければならないでしょう。
■ソーシャルな場で無視されないために
無視されるのが失敗、なるほど、そうであるならば、「有名な企業ではない場合は、注目してもらうのが難しいから、失敗しやすいということか?」という疑問が沸くかもしれません。でもそれも、実際はちょっと違うと思っています。
有名企業・大企業だからフォローしてもらえるのではなくて、フォローしてもらえるのは「有益な情報を発信している場合」です。有益なアカウントであると一度認知してもらえれば、その後の注目度については、企業の一般知名度はあまり関係ないということを、多くの実例が示してくれています。
逆に、守るべきものが多すぎる大企業の場合、“情報のコントロール”を前提にアカウントを運用せざるを得ず、ソーシャル/オープンな場では不利に働くケースも多いでしょう。
人々に有益だと感じてもらえるような発信を地道に重ねているアカウントは、自然と、大量のアカウントの海の中でも浮き出てくる(人の目に何かしら触れる機会が増えてくる)のが、ソーシャルな場のしくみの素晴らしいところです。ここに、ネットワーク上でログを積み重ねることの重要さがあります。オープンにされたログが増えるほど、人の目に触れる可能性が比例して増えるのがインターネットです。
ですから、どのような企業であっても、まずは「自社でこそ発信できる有益な情報とは何か?」を定め、それを地道に発信し続けることが、(特に採用というケースにおいては、)ソーシャルな場で信頼関係を構築し、成果を得ようとする際の王道です。
決して目立ったことを考える必要はないですし、面白い事を言う必要もないですし、自社が有名企業である必要もないはずです。
難しい点があるとすれば、それを継続できるかどうか、です。
■「有益な情報」と、スタンスの決め
“有益な情報”とは、端的には、“受け取った相手が有益だと感じられる情報”のことです。
言葉にしてみると、かなり当たり前のことですが、大切なのは、
(1)その“相手”とは一体誰のことであるか、決めているか?
(2)その人たちが「有益だ」と思うことは何であるか調査・仮説が出来ているか?
(3)そこに“提供できる何か”を持っているか?集めているか?
(4)それを、メディア上/選考プロセス上に、どうオープンにし、具体化し続けられるか?
これらを順番に考え、スタンスとして設定できているかということです。
これらが定められていると、発信するスタンスにブレがなくなるはずです。“相手”とそのニーズを明確に意識することで、信頼を裏切るような無為な言動がなくなるはずです。採用プロセス全体に辻褄が通ります。情報も有益なものが多くなるでしょうから、当初心配していたいわゆる“失敗”も、ほぼなくなるでしょう。
■でも、ネガティブなリアクションをもらうことは、あります
とはいえ、実際に運営し始めてから、ネガティブなリアクションをもらうことは、あります。
その場合は、「自分たちはなぜそのような情報を、そのような形で出したのか」、とか、「このようなプロセスを作っている理由は何か」、などを明確かつ論理的に説明ができることが大切です。上記(1)~(3)は、そのときの根拠となるものです。
また、明確に説明できない時は、まさにその時こそ、素直に自分たちの非を認めるべき状況だと判断することが出来ます。
逆に言うと、それ以外の時に、なんでも謝ったり非を認めたりする必要はないでしょう。
さらには、なんでもかんでも、一般ウケ・全員賛成を狙ったことばかり行う必要もないでしょう。例えば(他社成功事例を参考に)意図なく軟式アカウントを運営するとか、そういうことはあまり効果を持たないだろうと思われます(=(1)が出来ていないので)。
また、最近ありがちな、瞬間的にフォロワーをかき集める行為も同様に思えます。
(1)~(3)あたりを考えられていない場合、「フォロワーが多いほうがいい」という、マスマーケティングの発想に頭の中が寄って行ってしまいます。私たち採用担当がそういうのに慣らされ過ぎているので、どうしても「数が多いと偉い」みたいな考えを持ち出したくなるのですが、ソーシャルな場では、そこを根拠にしないほうが、合います。
もともと、信頼関係が積み重ねられていない初期の状況で、多くのフォローが付くはずがありません。いきなり多くのフォローが付いてしまったほうが、その後の運用が難しいと思います。スタートダッシュをきめるとかいうことよりも、コミュニケーションと信頼関係をきちんと継続し、成熟させていくことのほうが、最終的には価値の高いコミュニケーションをつくっていくことになるでしょう。
運営をしていて何らか問題が出てくるケースの多くは、「自分たちのスタンスを決める」ということが出来ておらず、「“相手にとって”有益な情報を発信する」という前提が欠けていることがほとんどだと思います。
最近多くなってきた、ソーシャルリクルーティングのコンサルタントに何か依頼をする場合は、ぜひこのポイントを重視してみてください。特に(2)とか(4)あたりは外部のプロフェッショナルに頼んでみると良いかもしれないです。
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ここまでのまとめ
ソーシャルな場で、公式アカウントを運用する際には
・「相手にとって有益な情報は何か?」を明確にし、スタンスを決める
・そのスタンスに従った情報を地道に発信し続ける
・ネガティブなリアクションに対しては、スタンスに沿った反応をする
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■ネガティブなリアクションのありがたさ
ネガティブなリアクションは、自分たちの言動に対するアラームであって、これをもらえるということは、自分たちがいったん決めたスタンスを(もしくはスタンスを決められていなかった、ということを)もういちど見直す、客観的な材料になるものだと考えられます。
「自分たちの行動やスタンスを、より最適化する余地がある」---そんなことを考える材料をフィードバックしてもらえるとは、たいへんな財産で、自己修正を常に正しく行うための指針を手に入れていることになります。
オープンな場にいることの意義はここにあり、どのようなリアクションであっても、そこのコミュニケーションが発生していることが最大の価値であるということを心にとめておきたいものです。
■仲良くなりすぎて……?
一方で、信頼関係を構築していくプロセスを経ながら、不採用の通知をしなければならない場合(に何が起こるか?)を心配されることもあるかもしれません。採用の場ですから、合否がつくことはいかんともしがたいですが、ソーシャルな場のロジックに従えば、「信頼関係をもったお互いが、新卒採用というひとつのフェーズにこだわらなくてもいいじゃないか」というコミュニケーションは可能だと思います。不採用とは、信頼を裏切ることではないわけで、新卒で不採用だからといって、関係を解消する必要はお互いにない。もっというと、より良い関係は雇用関係ではないかもしれないが、お互いにとってのベストな関係を今後も構築する可能性はある、それがソーシャルな繋がりを深めた社会が可能にすることなのではないか。そんなふうに思います。
■実名化でますます炎上はおこりづらい(と思われます)
これまでいろいろと考えてみたものの、冒頭にも触れたとおり、これまでに採用担当者が経験上目の当たりにしてきたネガティブフィードバックには、「みん就」はじめ、無為なものが多く、それが担当者の原体験になってしまっていることも多いのだと思います。
しかし、現状のソーシャルな場において、いよいよそのイメージを捨ててよいのでは、という状況になっています。
facebookやLinkedInによって、ソーシャルな場で活動する際のアカウントが実名化する、というたいへん大きな変化がやってきているからです。
実名になることで、発言にパブリックな色彩が増すため、無意味な類の炎上はますます起こりづらくなるであろう、と想像できます。
何かに反論するにしろ、意義を唱えるにしろ、論理性や社会性の高いものを行わないと周囲に納得してもらえないということに、実名で活動している若者たちは気付き始めています。個人的な怨念を無闇に吐き出したところで、そのような行動のほうが、自分のためにならない。反論をするのであれば、それが他の人々にも納得されるようなものでなければ、ならない。
だからこそ、そのような場で、ネガティブなリアクションをしてくれるというのは、かなりありがたいことである、とあらためて思います。
※逆に言うと、本来おこなわれるべき反論や異議すらも、実名化のために押さえつけられてしまう可能性があり、そこが今もっとも懸念されるところです。が、おそらく、若い世代は早急にその環境をキャッチアップしてくるはずです。
■BtoB企業の担当者の方へ
どうしてもBtoB企業の場合、ソーシャルメディア上での情報発信に優位を感じられないということはあるかもしれません。私個人的には、BtoB企業が使うべきソーシャルツールの最有力は、「ブログ」だと思っています。facebookやtwitterよりも、断然、BtoB企業の「専門性の高さ」を発揮できる場があります。関連するブログエントリを以下につけておきますので、ぜひ参考になさってください。
■最後に
そもそも、これまで、匿名ゆえのネガティブリアクションの原因になっていたのは、採用の場において「企業のほうが立場が上」「企業は情報を都合よくコントロールする」という枠組みの押し付けにほぼすべて起因するのではないかと思っています。割を食っているのが就活生側という。
ソーシャルな場においては、こういったスタンスをはずして考えざるを得ないことになりますので、多くの、本来なくてよかったはずのネガティブリアクションは、お互いの関係の中で整理されることが多いのではないかな、と思います。
人事・採用担当 浦野
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