ソーシャルメディアを使った採用活動も、これまでいろいろな方々の努力の甲斐あって、既存の採用活動に対するオルタナティブとして徐々に認知が広まっているように思います。
2013年採用は、「ソー活元年」になるというような言葉を、一般紙(誌)などでもちらほら見かけるようになりました。
そんな状況下ですから、勢い、企業の担当者としてソーシャルな場でリクルーティングなりマーケティングなりをしたことがない人々が、この話題を語ることも多くなっている気がします。
例えば「ソーシャルリクルーティングをやらない理由」を論をはって語る採用担当者というケースもそうです。また、外野から諸々批判する人たちも、現実の採用現場の課題を実感することないままあれこれ言っていて、そういう人たちの言うことって、的外れとか重箱の隅みたいなことが多いと思っています。
これからソーシャルメディアを使いはじめたい、はじめたけれども何かうまくいかない、本質的な見直しを行いたいという担当者の方々にとっては、そういう話に惑わされないことが大切だと思います。
2013採用から(2011年冬~)ソーシャルメディアを運用することになる、という企業担当者の方も多くいらっしゃると思いますので、今回は(すでに数年、採用マーケティングの実務として経験を積んだ立場から)「ソーシャルメディアと採用活動」について、根本的なことをもういちど見直し、巷にあふれ気味な多くの言葉を、きちんと整理する判断軸を確認してみようと思います。
■われわれの大前提
企業の担当者が忘れがちな現実は、「ソーシャルメディア上では、企業が活動することなど、そもそも歓迎されるはずがない」ということです。
広告・宣伝なども面倒な存在ですが、よりによって採用活動なんていうものを、ソーシャルメディア上で企業が始めるということは、ユーザー(学生など)からしてみれば邪魔者の登場以外のなにものでもなく、突然自分たちの生活圏が侵される!という感覚を持たれるほうが、まっとうというものでしょう。
われわれ担当者は「ソーシャルリクルーティングなんて、元来、歓迎されるものではない」というところからの出発なのです。これ忘れるといろいろなものがずれてきます。
だから、企業アカウントの運営者は(それがリクルーティングであれマーケティングであれセールスであれ同様だと思いますが)、その、誰も喜ばないことを意識し、やって、何かの結果を出さなければならない立場にいるということです。
■そして、「われわれがそこに行く」ということ
では、元来が歓迎されるものではない前提のわれわれが、そこでするべきこととは何でしょうか。
何をすれば、その前提が、歓迎され信頼をつくるコミュニケーションに変わっていくのでしょうか?
そのヒントとしてここに引用する記事は、タイトルこそ「10の理由」であり、その施策自体がメインコンテンツのように読めますが、採用担当者が自分の仕事に脳内変換して読むとき、最も大切な、たった1つの事を的確に示してくれています。
そのたった1つのこととは。
それは、ソーシャルな行為を志向し、信頼されるコミュニケーションをしたいとなれば、
“彼らがあなたの所に来るのを待つのではなく、あなたが彼らの所に行こうとする必要があるのだ”
ということです。
はじまりは信頼などない、歓迎されない立場ゆえ、そこで受け入れられる関係をつくるためには「われわれがまずそこに行かないとダメだ」という発想こそ最初にあり、だから次に「そのうえで、どうやったらそれをうまくやれるか」を考えなければならない、ということに気が付きます。
わたしたちに置き換えれば、まず「応募してきた求職者を企業が仕分けるもの」という、企業のところにユーザーが「やってくる」ことを前提とした企業中心の採用活動の導線を、ソーシャル上において全く逆の視点から眺め始める必要があるでしょう。
すでに、企業のマーケティング活動はおおよそその方向(ユーザー視点)にシフトしているはずなのです。なぜか人材採用の活動だけがそこから取り残されている感が否めません。だから、採用活動のソーシャル化(※)は、企業活動における「ユーザー視点」の原則の中で、最早やらなければならないMUST施策であると同時に、多くの場合、これまでとは考え方や立場を真逆に捉えて設計するという行為になるはずだと思います。
(※ソーシャル化とは、「ソーシャルメディア化」ではない。つまり必ずしもソーシャルメディアを使うことだけを指すのではない、ということも大切なので付言しておきます。)
そういった認識に立つことによって、既存の採用活動・就職活動へのカウンターを成立させるのがソーシャルリクルーティングの意味と目的(本来あるべきマッチングやターゲティングの場を新たに構成する)につながるはずです。
加えて言うと、それらを継続し、あるべき成果に繋げていくには、必ず2つの視点の裏づけが必要になってきます。
ひとつ目は「なぜわれわれはそこに行くことにしたのか」という理由を持つこと。ふたつ目に、その土地土地で受け入れられるための「ローカルな風習や思想を理解できるか」、ということです。
これらもまたとても基本的なことですが、出来ていないことが多いのです。この2つが曖昧なままでは、その場には行ったものの、何をしていいのやら分からず迷子になるか、だれからも見向きもされない一人ぼっちになるかのいずれかだろうと思います。
ソーシャルメディア上に登場することがユーザーに与える違和感を企業の担当者側は忘れてしまいそうになりますが、よくよく注意してください。facebookにページを開く、twitterでアカウントを設ける、というまでは良いのだけれど、根本的な認識をハズしていると、「ソーシャルな」思想と異なる活動を平気でしてしまう可能性は常にあると思いますし、そういう事例が、すでにたくさん出てきてしまっています。
■「アクティブサポート」というヒント
どうやったらうまくやれるか。どう輪の中に入り、交流するか。信頼関係を作っていくか。
といったような具体を考える際に「アクティブサポート」のアプローチ方法を研究してみると、応用範囲が広いヒントを与えてくれるのではないかと、最近思っています。
※参考図書(Twitterアクティブサポート入門 「愛される会社」時代のソーシャルメディアマーケティング)
もちろんわたしたちはサポートセンターで働いているのではないけれども、ソーシャル時代の企業とユーザーのあり方を考えるうえで、「アクティブサポート」の考え方と方法論は、すべてのマーケティング活動やサービス活動全般の本領に他ならないはずなのです。ソーシャル上で採用活動を担当するわれわれにとっても例外ではないものです。また、twitterとfacebookの利用意図の違いはどうあるべきか、というところへの解がここから導かれたりもすると思います。
弊社の行ってきたことも、「アクティブサポート」という輪郭に沿って捉え直してみると、発想が共通するものが多いことが、(実は、今になって)思考整理されてきました。
■例えば、弊社が最初にやったこと
弊社が2009年当時に、「ナビサイトでは当社の採用は成り立たない」と判断し、ナビサイトを使うのを一切やめ、初めてtwitterの採用アカウントで活動をはじめたときも、いろいろな工夫に迫られました。採用担当者と就活生という微妙な関係のなかで、ソーシャルメディアを介したコミュニケーションをどう成り立たせるのか。そこで新しい価値を、お互いに模索することはできるのか、思考や行動のありかたにものすごく悩んだことを覚えています。
具体的な行動は、これまで公開した資料や勉強会の場で多く話をさせていただいてますので、ここでは詳細は割愛をしますが、この資料の45ページや、この資料の26ページ~32ページに、少しまとまっています。
■こちらからの一方的なフォローはしない
■例えば就職活動に対する悩みや戸惑いがツイートされたときに、採用担当者として解決する言葉をリプライとして飛ばす
■同時に、採用活動でtwitterを使っているスタンスをきちんと説明する
■タイムラインには、就活生が見ると役に立つような話題で満たしておく
■「良ければフォローしてください。迷惑だったらブロックしてください」とスタンスを伝える
など、こんなところから、地道に一人一人のフォロワーを増やしていきました。
派手なこともしていませんし、綺麗な花火も打ち上げていません。
でも、最初のフォロワーとなってくれた数十名との関係づくりを慎重に行っていると、その後は、自然と新たなフォロワーがやってくるようになり、影響力のある学生さんがRTしてくれたり…ということになっていきました。
facebookページも、この行動原則を踏まえて、応用しています。
だから、フォロワーや「いいね」が、爆発的に増えることはありません。特に、運営し始めて数カ月間は、有名企業でない限り、数ばかり増やすのはやめたほうがいいでしょう。なぜなら、そんなに数を増やし、自分から出かけていくことができないような散漫な結果になっては意味がないからです。
、、、と、これまで見てきたとおり、ソーシャルリクルーティングを議論するときは、必然的にその「行く」「関係をつくる」という信頼構築のためのプロセス論を踏まえ、各事例におけるそれらの実現の是非を問うものになるべきだと思います。そこを外れた施策は結論につながらないと思いますし、幹をはずれた枝葉の議論になってしまうと思います。
■ということで、ひさしぶりにリクナビをdisるww
リクナビ2013では、その掲載内容をそっくり転写して、facebookページを自動生成してくれるらしいです。なるほど、リクルートさんのやることでは、何も変わらないだろうし、何も新しいものは生まれない。課題の解決という発想は無視されているのかと思う。
この施策に乗っかっても、企業(採用担当者)は、今までのリクナビ採用活動のスタンスを変えないだろうという最大の問題がそのままで、リクルートさんもそんな本質論には手をつけていないだろうし、このサービスの設計思想には入れていないのだろうと思う。
採用活動が(社会的にも、個別企業的にも)問題を抱えた今の状況への解を求め実践されてきたのがソーシャルリクルーティングの場だと個人的には考えていますが、リクナビの施策には、そんなことはまったく踏まえられていないのでしょう。リクルートという会社の立場上の責任をいったいどう考えたら、こういう施策を平気で打ち出せるのか。こういう恥ずかしいことはそろそろやめたらどうかと思う。本質的なところを理解していない「方法論の拡張」が、どういう弊害をもたらすことになるのか、もう少し事業者としての責任を含めてキチンと考えてもらいたい。
これが最も金儲けに繋がるやり方だからね、というかもしれないけれども、残念ながら、こういうWeb1.0的な発想がもう金儲けとしても通用しない土俵に乗っているということに気がついた方がいいでしょう。ソーシャルWebの時代に考え至ったほうがよいのではないでしょうか。
■さらに、常見氏による批判も…なんだか…な理由
同じ意味で、ソーシャルメディアによる採用活動がインチキ臭い、っていう常見氏のこの指摘も重箱の隅な指摘の羅列になってしまっているのが気になります。
確かに文中で批判している対象事例は批判されて仕方がないものだと思うけれども、その前に、そもそも現状の「ソー活」を批判するのであれば、こんなどうでもいい事例が切り口ではないと思う。基本構造への視点がまったく見当たらないこういう批判の提示のされかたも、これからたくさん出てくるだろうし、それで納得してしまう人も出てくるのだと思いますが、そういうのは煽情的で面白かったとしても根本的な生産性がない。よろしくないなぁ、と思ってしまいます。
リクルートHRMさんのコンテンツをソーシャルリクルーティングの良い表現例として取り上げてもいますが、このコンテンツも結局は、今の採用活動のロジックのまま、(情報の魅せ方の延長線上で)変化球を投げてみましたというものであって、こういうのがfacebookページの好例とか、差別化された本来的なコンテンツだと言っていては、あまりに表面的なところにしか言及しないんだなと残念なものです。「いい感じ」に仕上がったコンテンツ表現論の問題に過ぎない。
この記事でリクルートHRMさんを(リクルートOBの常見さんが)取り上げることに、何か別の意図があるのならば、それまでですが。
■最後に繰り返します
これまでの採用活動そのままを、ただツールだけ変えて行う「ソーシャルリクルーティング」が増えてくることの懸念は大きいです。
とても単純な“われわれがそこに行こうとする必要がある”という基本を理解しないで作ったプロセスは、きっと何をやってもうまくいかないと思う。特にソーシャルな場では、大きな逆効果になる可能性もある。
リクナビページをfacebookに転写したってダメでしょう。社員の様子を手を変えて見せてみれば解決するっていう問題でもない。単純で基本的な前提を振り返らずに何をどうしようなどと手を尽くす前に、出発点の発想を再び組み立てる必要がある。そこにしか新しい信頼関係は現れない。それが最近強く感じていることです。 最後にふたたび、先ほどの記事からの引用で、〆ます。
“これがまさにFacebookをこんなにも強力なマーケティングメディアにしていることなのだ。それは私達にとって、直接ソースに行く手段なのだ。それは、すでに発生している会話に自分達自身を投入するための手段なのだ。通常、ウェブサイトは会話でもなければ行ったり来たりのダイアログでもない。Facebookは、そういった意味で異なるものを提供しているのだ。”
文責:人事・採用担当 浦野
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